第30回を迎えた読書会はレーモン・ルーセル『ロクス・ソルス』が課題図書。参加人数8名で池袋某所で13時〜17時まで開催しました。
まずは自己紹介。この時点であった意見は以下のような感じ。
- ガイドツアーの文字起こしで小説になっていないため、状況が分かりづらい
- アカ=ミカンスは映画「アビス」の原型か。
- 言葉遊びの要素が大きく、読者の発想の限界を超える。前衛的な文章とおもしろさが相反している。
- 陳列の描写。「何を書く」はあるが、「どう書く」は翻訳では読み取れない。
- 空想科学小説であり、当時の基準では最先端だったかもしれないが、今だと滑稽に見えてしまうところがおもしろい。
- 装置や仕組の描写が目的であるところが今のSFと同じ。
- ラストを夕飯で〆るところに「楽しい展覧会を見てきた」という充実感を感じる。
- 描写が克明で、発明品が楽しい。
- 主観を極力排除した描き方で意味づけがない。
- 通読できたのがうれしい。
- 由来と結果の反復でところどころギャグになっている。
- 最初は描写を脳内で再生することに慣れずに疲れるが、関連本(特に伝記)を読むとルーセル自身がおもしろく感じられる。
- 読み取ったものを具象化したくなる。
ルーセル自身は相当に天然の人だったそうで、とにかく『プロセデ』と呼ばれる規則を決めてそれに従わないと書くことができないということで、現代だとおそらくはアスペルガー症候群と診断されてしまうだろうが、とにかく「キュートな」人であったらしい。このドラマチックさを排除したかのような本を無理矢理劇化しようとしたり、他人に脚本を書かせようとして、結局の所大失敗する。本人にはまったく文学運動に無関心だったが、アンドレ・ブルトンらのお祭り野郎にいいように利用されて傷ついたりもしたらしい。彼自身のおもしろさは自伝『レーモン・ルーセルの謎―彼はいかにして或る種の本を書いたか』によく現れているようなので、機会があれば読んでみたい。残念ながら彼のプロセデは、決して翻訳が悪いということではなく、日本語とフランス語の違いによってどうしても読み取ることはできないのだが、よく持ち出されるbillard(ビリヤード)とpillard(屋根)を組み合わせた文章なども、発表当初はそれほど重視されていなかったようなので特別に嘆く必要はないのではないか、ということでした。
前回読書会で取り上げたキース・ロバーツ『パヴァーヌ』(レポート書いてませんすいません)では訳注が詳しすぎてネタバレにまでなっているのに対し、本書は訳注があまりなく、単独で読み解くのは前提知識がないとなかなか難しい。また、傍点がちょっと不思議なところにあったりして、原著の時点であったものなのか翻訳でつけられたものなのか謎であった。
各自が印象に残る発明を発言していくところでは、一番人気はやはりリモコン気球で歯を使って傭兵の絵を描く、でした。結構当時最先端の技術を取り入れて、やってることは人間の手でもできることをわざわざ回りくどくするところに魅力を感じられるようです。空想科学小説ではあるのだけれど、原理が「なんでもできる電気」やエーテルなので、現代の眼から見るとインチキに思えるところもあるのですが、そのポンコツぶりがまた愛らしい。また、物語の中で更に物語が進むという作中作形式が結構頻繁に見られ、小説の構造はとてもしっかりしている。
ひとりで読んでいると理解しがたい描写があったりするが、読書会という形式で銘々が語ることにより、意外な発見があってよりおもしろさを感じられたのが収穫だった。案外に難解な小説ほど読書会に向いているのかもしれない。そして、無表情に見えるルーセルの発明が、他人の手によって鮮やかに感じられ、再読することでよりルーセルの世界が広がるのかもしれません。個人的には読みの世界が広がったという面ではこれまでで最も成功した読書会と言えると思います。
次回は某三柴氏によるブッツァーティが5月に開催される予定です。
レーモン・ルーセルに初めて挑む方は『アフリカの印象』が先の方がいいかも。こちらの方がライブ感が多少あります。
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