三橋一夫『鉄拳息子』への道 その2

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三橋一夫『鉄拳息子』。分かっているのだ、たいした話ではないことは。どうせ九州から上京して大学に入った足柄金太郎(かねたろう)が、ラグビー部に入って鉄拳を使って活躍するくらいのものだ。強烈な表紙も単に蕎麦屋の従業員にのぼせあがって「蕎麦なんていくらでも腹におさまるからじゃんじゃんもってこい!」くらいの勢いだろう。『鉄拳息子』のあらすじは小林文庫様のゲストブックでうっすら分かっているのだ。

でも、だからこそ、蕎麦屋のシーンで果たして本当に半裸になって蕎麦をたぐっているのか。

それでいて、「サザエのような鉄拳」(by『鉄拳社員』)はいつ炸裂するのか。

この2点がどうしても気になる。世の中は嫌みを言う執事やら、原作と全然ちがう古本屋の美少女に打ち震えているようですが、正気か。こんな表紙を見てしまったら、いったいどうして半裸で蕎麦をたぐる必要があるのか、そっちの方に好奇心が向かうのがまっとうな人だろう。

というわけで、日本の図書館で唯一『鉄拳息子』を保管している北海道立図書館に電話して、取り寄せができないか聞いてみました。さすがに「本の名前は『鉄拳息子』です」とは言えなかった。

「本州への本の貸し出しも可能ですが、出版から50年以上経っている本は、破損の可能性などもあるために貸し出しは行っていません。」

『鉄拳息子』の出版は1957年。神は我を見放した。この時点で、『鉄拳息子』を読むためには3つの方法がある。

  1. 中野の大予言で3万円で『鉄拳息子』を購入する
  2. 東京から北海道立図書館に行って閲覧する
  3. 持ってる人に借りる

わたしの知人には図書館を開けるような蔵書を持つ人が3人はいるが、おそらくこの本はジャンル外で所有していない。よって3番目の選択肢は除外されるため、残りは2択。どちらも最低3万円は必要だ。果たして半裸で蕎麦をたぐる小説に3万円をかける必要があるのか。1冊の本に3万円をかけることは人として躊躇われるが、3万円の旅行のついでに図書館で珍しい本を読んだ、ならまだなんとか人としての体裁を保っているような気がする。だいいち、自分の持っている本で一番高いのは何? と聞かれた時に「半裸で蕎麦をたぐっている若者が表紙の本」と答えるのははばかられるではないか。よって、北海道へ行くのが自分としては正解のような気がする。行くか、北海道。

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