コケカツ(106)

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ついに柿内さんががっかりしていた、プルースト自身のネタバレ、祖母の病から死の章にたどり着いた。
一文ずつが祖母の運命をたどる時間のようで、読まなければ祖母は苦しんでいるものの死ぬことはない。読者は自在に時間を制御できるけれども、来たるべき祖母の死という運命は変わらない。読者はいたずらに時間を先延ばしせず、読み進めるしかない。

ずっとこの家の世話を焼いているお手伝い長のフランソワーズ、6巻ではサロンの話ばかりでなかなか出番がなかったが、貯め込んでいた力を放出するかのように純粋な残酷さを発揮する。ここが笑いのポイントで、同時に祖母の病を前提にしないと起こりえない悲劇でもある。
ひどいのが蛭を使った瀉血の場面。祖母は自死を選ぶ人を止めることは残酷で、虫も大嫌いだというのに、死が間近にあることを知りながら家族のために蛭の瀉血を受け入れる。祖母のうなじに貼りつく蛭の描写が薄気味悪くて、紳士淑女の優雅な生活を描いた直後のグロテスクなさまが実に効果的です。わたしも蛭は苦手。

そこへフランソワーズときたら!

「あらあら。ちっちゃな虫さんが奥さまのうえを走っていますわ。」

おまえはー!
若鶏の首を切るのに聞くに堪えない暴言を吐きながら鉈を振り下ろす怪人だけあって、『失われた時を求めて』の上品な雰囲気を完膚なきまでに叩き潰す。そういうフランソワーズが大嫌いで大好きです。

しかもこの後、祖母の周りをちょくちょく留守がちになる。どうしたんだろうと見てみると、喪服の仮縫いをしているのだ! ブラックジョークはイギリスだけじゃないんですね。

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