しょっちゅう恋に落ちている語り手、この巻ではゲルマント夫人に恋をするも、出会うことさえままならず、友人のロベールを頼りに住処を移す。ここから急激なボーイズラブ展開を誰が予想できたろう、なぜか語り手とロベールがいちゃつきはじめます。
読んでいるうちは文章の雄大な流れにのって、プルーストを読む楽しさにどこまでも耽溺できます。しかし、なぜこうなったかさっぱり分からない。前の巻ではロベールのことをあまり良く言ってなかったはず。
とはいえ、始まってしまったBLにはつきあうしかない。
一人でホテルに泊まるのは悲しくなるから嫌、とロベールを頼ると、彼は喜んで迎え入れて軍隊の中でも評価が得られるように行動します。あまつさえ同衾!
朝チュンの後、ずっと泊まるわけにはいかず渋々ホテルに向かう語り手でしたが、思いのほかすてきなホテルにうっとり。それでもロベールの優しさに甘えて、ちょくちょく軍隊に顔を出す始末。これはBLというより少女マンガでは?
ドレフュス事件の賛否(プルーストはドレフュス派だが軍隊はほぼ再審反対)や文学について語り、「キミは(僕の尊敬する)○○さんに似てるね!」などと身内に例えて褒めあげる。軍隊というよりきらら系では?
軍隊における男性同士の(恋愛感情のないとプルーストが主張する)友情に、作者は少し夢を見すぎだと思いますが、それがいい。仲間同士でキャッキャウフフしながら、女性をはじめとした差別的な意識が現れてこないところが現代でも気分良く読めるポイントなのかもしれません。
ユダヤ人差別に端を発したドレフュス事件は、ロシアでのポグロムなど反ユダヤ主義を鮮明にし、その後の世界史に大きな影響を与えていきます。ここではプルーストの創作とはいえ、当時の受け止められ方を見ることができ、文学としても世界史としても最先端に立っているな、と読んでいて歴史の風を感じることができる。ここから第一次大戦へ進んで、ドイツが負け、フランスだけでなくドイツでも反ユダヤ主義が蔓延していく。わたしには見えていない歴史がたくさんあり、それが目の前に現れてくるというのも小説のおもしろさだと実感します。
この先、ロベールが軍隊についてオタクぽく長文で語りはじめる。柿内さんが辟易してるのを読んでちょっと笑う。ミリオタの話は長いのか、と覚悟を決めてわたしは読み進める。
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