コケカツ(68)『ルポ 沖縄 国家の暴力 現場記者が見た「高江165日」の真実』

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本土でもおなじみスナゴケ
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沖縄タイムスの記者による高江ヘリパッド問題のルポ。沖縄北部、150人ほどが住む東村高江に米軍のヘリパッドを移設することになり、住民が反対したものの、政府が押し切って建設工事が開始される時期を記録した書籍。
Wikipediaを見ると、しばき隊の人もデモに参加して暴力による現行犯逮捕があったと書かれている。そういう事件は書かれておらず、政府をはじめとした機動隊・警察などへの批判が中心。偏りのある内容だということは前提にしておきたい。

その上で、個人的には無駄に自然を破壊してヘリパッドを作ったことに最も憤りを感じる。沖縄生物学会をはじめ、日本植物分類学会など自然科学に関する学会が一堂に見直し要望書を出すもすべて無視して建築を断行したことは、自然を蔑ろにした悪政だと明言できる。ある生物が絶滅したり地域からいなくなったりしたときに、どんな影響が出るか人間は計算することができない。20世紀までウナギがハワイの方まで泳いで産卵していたなんてわからなかったくらい自然界は謎ばかりなので、人間の都合だけで自然を破壊するのは許されないと信じています。このヘリパッド周辺にはヤンバルクイナもいてマングースとの相乗効果で大きく減少するのではと懸念されています。琉球にしかいないコケもいっぱいあるので、わたしが見る前に失われたコケのことを考えると胸が痛い。

人間のことだけ見ると、ヘリパッド建造はアメリカがごり押しして日本に作らせ、上下関係をきっちりさせる儀式に見えます。このヘリパッド一つで軍事施設が足りなくなるなんてことある? わざわざ自然を埋め立てて基地を作ることにどんなメリットがあるのか、本書を読むだけではわかりませんでした。あくまでルポなので、事件の背景を詳しく説明してくれるわけではないので、この問題に立ち入るにはもう2冊くらい読む必要がありそう。

機動隊は反対派住民を強制的に立ち退かせたりけがをさせたりし、差別的発言をしたかどで戒告を受けたりしている。筆者は取材のために現場から出ることができなくて食料や水がない状態に陥るなど、法律を無視した機動隊のふるまいが鮮明に記されている。
この頃、ちょうどヘイト本と呼ばれる反中・反韓の本が書店に並んで問題になっていた。あらゆるところに分断が発生して、高江の問題もその一つなのだろう。

著者は本土の人にとってこの問題が対岸の火事だろうが、いずれ本土も同じように蹂躙されると警告する。しかし、多くの人はそれほど多方面に意識を振り向けて暮らすことはできないのだと思う。福島原発の問題でさえオリンピック間近を迎えて時の首相が「健康には問題ない」と断言してしまうくらいで、わたしたちもそれを納得しないまま受け入れている。
結局、人は自分のことにならない限り、本気で心配したりできない。武漢のウイルスだって去年はまさに対岸の問題だったのが、日本に入ってきて一斉にマスク買い占めに走る。本書で散々沖縄に目を向けるように促されますが、読者は自分の場所でやれることをやるだけなんじゃないすかね。いずれ地方が過疎化して自治体まるごとなくなる時が来たら、米軍基地を招聘して再活性化、なんてことがあるかもしれませんが。

本書にはカヌーで立ち入り禁止区域に入り込む目取真俊の抵抗も出てくる。デビュー作を読んでから手を付けていなかったけれども、久しぶりに気骨のある文章を読んでみたいと思った。

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