コケカツ(61)草原の実験

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映画公開時はそれなりに長く勤めた正社員を辞めて契約社員であちこち飛び回ってたので、映画館に行く余裕がなかった。主人公が齋藤飛鳥並の美人で一切何も喋らない映画というのは知ってた。

晴れてAmazon Prime入りしたので見る。
こういう誰も喋らない映画、60年以降の実験的な映画によくあった。学生時代は深夜までバイトしてて、帰ってもすぐに寝付けないからBSの洋画を見ていたのだけど、今だったら映画館にもかからないようなマニアックな洋画を放送していた。アンジェイ・ワイダやゴダール、フェリーニなどのヨーロッパの名画を知ったのはこれがきっかけだった。時は渋谷系のポップさがあふれる時代に、ジャズやプログレッシブ・ロックが好きという捻くれた学生だったので、実験的で意外性があればあるほどおもしろがっていた。ワイダの「ヴィルコの娘たち」は今でもはっきり覚えているほど、何も動きがなかった。実家を離れていた男が都会で成功して帰ってくると、幼馴染みの四姉妹がすっかり成長しているのに驚き、美人1人ずつデートをするけど、結局手を出さずに都会に帰っていくという。だけどそれがいい! 自分でも自分の好みがまったく理解できないのだけど、何も起きなければ起きないほどリアリズムを感じるようで、がちゃがちゃ動きすぎる映画にはあまり興味が湧かない。

さて、「草原の実験」。太っちょのおっさんと齋藤飛鳥はどんな関係なのよ、と開始しばらくは分からないまま。おっさんの足を丁寧に洗う齋藤飛鳥、すごいエロいと思いながら見る。三つ編みって今の日本ではあまり見なくなったけど、神聖さを感じるのはなぜだろう。小学校の時に1本の太い三つ編みにしてた子がラーメンマンって呼ばれてたなー髭生えてないのに、とか中学の時につきあったことになった彼女、半年で3言くらいしか喋らなかったけど彼女も二つに分けた三つ編みだったなとか、三つ編みの思い出が蘇る。逆光で三つ編みをゆっくりほどく表現が実にヤバい。

幼馴染みで将来の結婚相手に決まってる若造が毎朝馬でオヤジの出勤から送ってくれる。このシーンは村同士で結婚する予感をもたらす。手をしっかり繋いですらりと馬に乗り、家について下りるシーン、気兼ねなさが明瞭に現れている。あるとき西洋人(ロシア人らしい)が水を借りに来て、それからというものことあるごとに西洋人が出てきて、彼女の世界が変わる。恋のライバルとして若造と喧嘩したりするけど、これは現実なのか、齋藤飛鳥の幻想なのか、判断に迷う。わたしは幻想だと思いながら見ました。なので、ラストも一緒にいるように見えて1人という悲しい結末なのだと思います。

映像がとてもすてきで、青い空と遠く地平線を見遙かす大地のロングショットは、世界の広さを感じさせる。歩いて生きるには過酷すぎる世界、馬の移動が基本で車や飛行機は逆に場違いに思える。
正直、アジア映画で好きと言えるのは僅かなのだけど、まちがいなく本作は忘れられない一作です。

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