コケカツ(60)直線と曲線とヒュゲ。ハマスホイとデンマーク絵画

art

東京都美術館で会期中に2回行われる、夜間に人数限定で入場する特別展覧に行ってきました。ハンマースホイの名前での展覧会は2008年だったからもう10年以上前か(当時の画集は高騰している)。その時はすべてハンマースホイの絵だったはずだけど、今回はデンマーク絵画と半々の割合。色彩を抑えたモノクロの世界と呼ばれることもあるけど、今回の展覧会で分かったのは直線と曲線のリズム、それと「くつろいだ雰囲気」を表すヒュゲのありようを照らす柔らかく頼りなささえ感じさせる光。

夜の美術館

夜の美術館は人がいなくて神秘的でさえある

ハマスホイと「デンマーク絵画」とあるように、序盤は同時期のデンマークで活躍した画家たち。彼らは北海道でいったら稚内のような北端に集って、漁村を舞台に描いた。そこにはナショナリズムがあって、荒々しい海と対峙する人々の強さを描く。ミケール・アンガ「ボートを漕ぎ出す漁師たち」はいかにもバイキングの末裔というがっしりした男たちが船を囲んで海原に人力で押し出す様子。スケーイン派と呼ばれる漁師たちの姿をそのまま描く一派があり、海の音と潮の香り、底冷えのする空気が伝わってくるよう。北海道の最果てで海に漕ぎ出すなんて、わたしなら即死だろう。骨格や脂肪や筋肉、根本的な身体の強さがちがう。
ハマスホイの前の世代にあたるクレステン・クプゲ「海岸通りと入り江の風景、静かな夏の午後」の淡いピンク色の空は、短い夏を惜しむような柔らかい光の表現。これは印刷では出せないし、わずかな照明のちがいでも大きく変わりそう。リンク先の画像だと赤が強すぎて全然印象がちがう。日本だと春か秋の20℃に満たない時期、晴れているような曇っているような夕空になる前の僅かな時間に見られるかどうか、という色を見事に再現している。
クリスティアン・クローグ「娘の髪を編む母親」など、室内という限定された場所に届く貴重な光、赤や青のはっきりした色の壁紙は大切な光を楽しみ尽くすためにあるのかも。
序盤のデンマーク絵画は、ハマスホイへ繋がっていく緻密な描写と印象派の影響が見えてくるので、「ハマスホイは半分しかない!」と憤らずじっくり見る価値あります。

ハマスホイの絵をモチーフにしたドアをくぐってハマスホイの部屋へ。国書刊行会から出ているウィリアム・トレヴァー・シリーズの表紙にもハマスホイが使われていますが、表紙になった絵は今回ありません。
今回、一番よかったのが室内の絵ではなく、「クレスチャンスボー宮廷礼拝堂」。薄暗い曇り空に丸屋根の礼拝堂上部が描かれている。この内側から放たれる光がすごい! 暗い色合いだからこそ感じられる淡い光にいつまでも見ていたい気持ちにさせられる。加えてハマスホイの醍醐味と今回気づけた、直線と曲線の計算された対比がはっきりと分かる。実物は印刷よりも緑色の丸屋根がはっきりしている。図録には解説がありませんが、もしハマスホイの絵を1枚もらえるなら迷わずこれにします。今日のような曇り空の日にひとり見上げたハマスホイと同じ心持ちになれそう。ゼーバルトを読んでいる時に印象が近い。

直線と曲線の美しい対比といえば、「ロンドン、モンタギュー・ストリート」の画面手前のカーブ。柵と歩道のカーブが柔らかみのある完璧な調和を見せる。全体に霧がかかったような先に細い木、がっしりとした建造物。解説を読んだらハマスホイ研究家が「最も美しい絵画の一つ」と評したそうで、分かる、分かります!とひっそりと一人で騒いでしまう。全然ちがうところを褒めてたらどうしよう。

極端にもののない室内に照らす優しい光を描いたハマスホイを見ていたら、数年前に見た高島野十郎を思い出しました。内省的な絵は光の表現も似てくるのでしょうか。

今回の展覧会に合わせたのか、ハマスホイの本が2冊いっぺんに出ました。どっちも買わないと……。

夜の上野公園

コメント