コケカツ!とは野山に分け入ってコケを見ること。撮るだけで採らない。
Twitterで10年間の読書遍歴を記す#小説で振り返る私的2010年代をみんなやってて、自分はどうだったかなーと振り返る。10年前にアリ・スミス『ホテルワールド』、リャマサーレス『黄色い雨』、サラマーゴ『白の闇』、デニス・ジョンソン『ジーザス・サン』、フエンテス『アルテミオ・クルスの死』と、今でも好きだと思えるような本を読んでいた。30代くらいが一番本を読める時期なのに、仕事も一番忙しいから、労働は読書に良くないと思う。
過去ログがとても見づらい読書メーターをひもときながら、個人的に10年間で記憶に残っている本をあげていくと、
【2010年】
カルロス・フエンテス『アルテミオ・クルスの死』:一人称から三人称すべてを使い分ける技術を用いて、ラテンアメリカならではの豪快さと繊細さで1人の成り上がりを描く。文庫版が出たから再読したい。
デニス・ジョンソン『ジーザス・サン』:簡単に人々がドラッグに溺れたり傷ついたり死んだりする、そんな中に現れるユーモアを、魚釣りの達人のようにさらりと掬い上げる。
【2011年】
バルガス・リョサ『緑の家』:最初に読んだのはもっと前に新潮社版だったような気がするけど、岩波文庫が出て再読&読書会で、出てくる人物を一通り洗い出した。内容で資料を作るのはGPSで足跡を記録しているようで楽しい(けど、他の本が読めなくなる)。
トルストイ『アンナ・カレーニナ』:大河ドラマのような本を楽しめたのは初めてかもしれない。後で読んだ『戦争と平和』は人が多すぎてリタイアしたけど、こちらは登場人物少なめで3組のカップルに焦点が当たっているので読みやすい。何より作者の運命の手が、登場人物にも読者にも見えないように悲劇に導く手腕がすばらしい。
宮本常一『忘れられた日本人』:執筆当初よりも日本人を忘れているわたしたちが帰り着くべき一冊。小説以上にドラマチック。
【2012年】
石牟礼道子『苦界浄土』:公害の歴史は学校で習った程度だったから、本書の猫踊りを読んで心が痛んだし、人々がその後病に苦しみ、社会的にも分断されるつらさは一生忘れられない。藤原書店版も読まないと……。
ゼーバルト『アウステルリッツ』:小説のようだけど現場の写真があったり、エッセイのようだけど現実とは思えないような描写があったり、それでいてハンマースホイのような静謐な空気が流れている。2020年復刊の情報が!
ボラーニョ『2666』:読んだだけで褒められていい。
【2013年】
プラトーノフ『土台穴』:ソ連が計画経済に失敗して、飢饉で100万人が死んだとも言われる時代が舞台。本当の貧困と、原因となったソ連という国のありように興味をもった。ここからしばらくスターリンの本を読みあさり、自由を奪われた人々というものが自分の中に形成されてきた。
アート・スピーゲルマン『マウス』:ユダヤ人として親世代がどのような目にあったか、生き延びた親がどのような生き方をしたかを子どもの視点から描いたコミック。ホロコーストについて真剣に意識するきっかけになった。合本して再版されるという噂を2年くらい前に聞いたけど、今の晶文社じゃ無理でしょうね……。
【2014年】
ジーン・ウルフ『ピース』:これも読書会のために人物相関図を作った。作者ならではのあちこちに仕掛けられたつながりを、狩猟犬のように追いかけるのが楽しい。
ホセ・ドノソ『夜のみだらな鳥』:ああ、混沌。
【2015年】
トマス・ピンチョン『重力の虹』:年末に読書会をやると決めて2ヵ月足らずで読み切った、全力疾走の思い出。
リチャード・フラナガン『グールド魚類画帖』:アレナス『めくるめく世界』と並ぶ破天荒な世界。
シモーヌ・ヴェイユ『重力と恩寵』:期待してはいけない恩寵について知ることは恩寵を期待することではないのかと、残酷な重力に縛られたわたしたちは問い続ける。
【2016年】
アリソン・アトリー『時の旅人』:しかけだけならよくあるSFが、英国田園風景を穏やかに描写することで傑作となる。
菱山修三『全詩集Ⅰ・Ⅱ』:言葉で描かれた絵画。「冬が来て、また腰を下ろす。炉のほとりに。(「冬」)」
岩月善之助『日本の野生植物 コケ』:バイブル。
【2017年】
塚本邦雄『王朝百首』:ようやく短歌の美しさが分かり始める。国文学科だったのに。元の百人一首選定への悪口も楽しい。
アンソニー・ドーア『すべての見えない光』:見えないことで見えてくるものなんて陳腐なことを言ってしまう。でも、見えないものをみんな追いかけているんだよ。
【2018年】
岡真理『アラブ、祈りとしての文学』:アラブ人の虐殺を他でもないホロコーストの経験者であるユダヤ人が行っていること、絶望的な状況で「希望はある」と信じる人たち。その祈りを垣間見ることができる。
ハンナ・アーレント『人間の条件』:執筆当時と現在では一概に頷けないところもあるけれど、「信頼できる確かさはなくても、人間は信頼に足りうる」という一節は心に響く。
【2019年】
ウィリアム・ギャディス『JR』:ボリューム、濃密な世界、悲劇と喜劇、それら全てが会話文でなされているだけで、忘れられない一冊。
ウラジミール・ナボコフ『淡い焔』:旧訳では見えなかった部分が見えるのは、メガネのレンズを変えるような新鮮さでした。
次の10年でプルーストを読み終えることができるだろうか。
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