コケカツ(25)高木典雄『こけやのたわごと』

『こけやのたわごと』書影 book
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コケカツ!とは野山に分け入ってコケを見ること。撮るだけで採らない。

最近は小説ではなく、コケの本を探してしまう。そもそも蘚苔類がジャンルとしてレアなのに、関連書になると途端に数が少なくなる。くわえて、蘚苔類を研究する歴史もあまりない。人が多いジャンルだと、ジャンルの概観を誰かしらまとめているけれども、わたしの探し方が悪いのか蘚苔類ではあまり見ない。

高木典雄『こけやのたはごと』。先生の経歴は蘚苔類学会の論文に詳しい。とってもレアなコケ、ナンジャモンジャゴケ(Takakia lepidozioides)発見に名を残す蘚苔類学の名士。蘚類なのか苔類なのか分からないから「なんじゃもんじゃ」と名付けられたという逸話があります。いま言わないよね、なんじゃもんじゃ。
八ヶ岳のどこかにいて、観察会に行くと見られるらしい。外見はしょぼいけど、龍角散のようないい香りがするというのが見過ごせない。食べられないし薬にもならないけど、いい香りのするコケはそこそこあって、それも探す楽しみ。

本書は教鞭を執っていた名古屋大学を退官する際にまとめられた一冊のようで、非売品。
簡素ではあるものの函入りで、扉の紙も凝っているし、ご挨拶の紙も挟まれている。贅沢な本を作れる時代を感じさせます。
中身はまじめ。苔類はゼニゴケ以外にもいっぱいいるのだから代表にしてもいいけど他のタイプも忘れないでねとか、年賀状には毎年コケの絵を描きますとか。そう、先生は絵も上手。顕微鏡を見ながら細胞を描くのが仕事だから当然かもしれないけど、ページのそこここにスギゴケやクマノチョウジゴケなどのイラストがついている。

読みどころはボルネオや屋久島などにコケを探しに行く旅行記のパート。日本以外にボルネオでもナンジャモンジャゴケを見つけた記録が隠しきれない歓びとともに冷静な筆致で書かれているのを見ると、先生、やりましたね! と声をかけたくなる。逆に、コケに興味がない人にはどうでもいい話ばかりです。
シダの前でめっちゃ喜んでる先生、本当にいい顔してます。

シダを前に満面の笑顔を見せる田中典雄先生

シダを前に満面の笑顔を見せる田中典雄先生

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