ジョージ・ソウンダース『パストラリア』(角川書店)

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パストラリア

角川書店の単行本は背にごろりと腹を出した猫がマークになっていることに気づいた。まだ続いてるんすかね?

収録作は、

  • パストラリア
  • ウインキー
  • シーオーク
  • ファーボの最期
  • 床屋の不幸

前に『変愛小説集2』で読んだ「シュワルツさんのために」がおもしろかったし、新刊が出ると聞いて読み始めた。一通り読んで、少なくともここに収録されたものは、「序曲」。短篇だからなおのことそう感じるのかもしれないが、この後で普通だったら物語の本編が始まる予感を残して終わる。表題作は人間動物園の類人猿役として動物園で住み込みで働いている(?)男の、相方になる年配の女性とのいざこざを描き、最後は別の若くて真面目な女性がやってくる。普通ならここからいいところなわけ。男は若い女性と不倫しちゃうの? とか、真面目な女性にどうやって言い寄るのかとか。でも、そこを予感させつつ描かない。他の短篇もほとんどそんな造りになっている。

この感覚はどこかで読んだことがあるな、と思ったらリョサの『フリアとシナリオライター (文学の冒険シリーズ)』だ。主人公の先輩たる売れっ子シナリオライターの脚本が物語の合間に挟まれて、「つづきは来週をお楽しみに」的に終わる。やきもきする感じがとても似ている。

もう一つ、ソウンダースで気に入っているのがペーソスだ。人生に成功した人物は一人も出てこない。単身赴任しながら動物園で見世物になっていたり、頭の弱い家族を抱えていたり、とんでもない事故が目の前で起きそうになっているのを見つけてしまったり。うじうじとして決断できないまま日々が過ぎていく、ごく普通の人の葛藤が、悲しさと笑いで味付けされている。あとがきではアメリカで評判になりつつある、と2002年刊行時点の状況が記されているが、それから10年して日本でもメジャーになりつつあるのはいいことです。辻征夫にも感性が似てる。

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