5月の話ですが、国立科学博物館と三重県総合博物館が合同で主催する苔と地衣類の観察会に参加してきました。キャンセル待ちもいたそうですが、今年はすでに3回も国立科学博物館での苔イベントに当選してしまい、すっかり運を使い果たした気分です。
観察ポイントは三重県の御在所岳で全く行ったことがないところ。先生がついて教えてくれるとはいえ、事前に何かしらの準備をしなくては落ち着かないので、CiNiiで関連する論文がないか調べてみました。すると『「第12回コケの会」と「御在所岳エクスカーション」』を初めとして、三重県で調べられた昭和30~40年代の苔関連の論文がたくさん出てくる。蘚苔類学会による雑誌はもちろん、調べていると「三重生物」という雑誌の存在に出くわしました。Ciniiでは閲覧不可で、公共機関でも国会図書館か三重県立図書館くらいしか所蔵がない。三重特有の苔情報が4、5件程度あればいいくらいの気持ちで国会図書館に出向きました。
調べてみると「三重生物」には毎号何かしら苔の情報が掲載されていることが分かりました。哺乳類から植物、菌類までいろいろな生物が掲載されているのに、どうしてこんなに蘚苔類がクローズアップされているのだろう? 多いときには全論文の3割程度が蘚苔類を扱っていることさえあります。その中で目立つのが「孫福正(まごふくただし)」の名前。毎号何かしら執筆され、苔にとどまらずシダや維管束植物まで幅広くレポートされています。いったい何者だろうという疑問符は追悼記事「孫福正先生 A personal memory of Mr. T. Magofuku 1907-1987」で解決しました。中学から植物を熱心に調べ続けて80歳で亡くなるまで地元の植物に集中して研究された姿勢には頭が下がるばかり。伊勢神宮の内部を特別な許可をもらって調査して珍しい苔をたくさん発見した成果を「孫福正採集による神宮宮域林産の蘚苔類目録 : 神宮司庁収蔵標本」にまとめたほか、「三重県の蘚類」という書籍まで出版されています。
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今は広島大学など蘚苔類の研究が進んでいる大学もありますが、当時は在野の研究者による調査の影響力が大きかったのかもしれません。また、今ほどデータが共有されている時代ではなかったので、各地で熱意ある研究者が育ち、独自に苔の研究を発表していったのかも。中京地区の蘚苔類についてはかなりの調査量なので、愛知や三重に苔を見に行こうとする方は目を通しておくと良さそうです。
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