土曜日、新宿駅11番線、6:44。奥多摩へ直行する快速に乗ろうと、カラフルなダウンジャケットを着込んだ登山客がプラットフォームに並ぶ。ここではスーツは場違い。寒さが和らいだとはいえ、3月上旬で最高気温が10度に届かない日の電車は、夏に比べるとだいぶ空きがある。まだこの時期の登山客は「物好き」のたぐい。仲間と語らう者、1人で地図をにらみ続ける者、朝メシをほおばる者。そして、苔の本をにやにやしながら眺める者を乗せて約2時間、山奥への小さな旅に出かける。
[amazonjs asin=”4486009525″ locale=”JP” title=”コケ (フィールド図鑑)”]
奥多摩駅に着くなり奥多摩湖方面のバスの列に並ぶ。登山客は少ないといえども、満員に詰め込んだバスが2台同時に発車するくらいに多い。彼らは皆、わたしとはちがう山をめざして、わたしが降りた後もバスに乗って去って行った。登山目的もいれればこの赤い橋を渡るのは4回目くらいになるだろうか。
今回のミッションはどこまで蒴が成長しているかをチェックすること。去年は4月に環境の変化があって忙しく、あまり蒴の様子を記録していなかったので、今年は3月から随時確認していくつもり。結果としては奥多摩の寒さが影響しているのか、1月に栃寄沢を遡上した時とそれほど変化があるようには思えなかった。とはいえ、そこここに蒴が増えているのも事実で、熟してくるのは4月に入ってからだろうと見込む。
奥多摩ではすっかりレギュラー感のあるイクビゴケ。どこにいっても群生しているわけではないけど、必ずどこかで見かける。大きい蒴の苔を見ると得した感じがするので好き。似たようなキセルゴケも見てみたいけど、そっちは見たことがない。
きれいに生えているムチゴケ。茎のある苔類が好きなので、こういうのはうれしい。秩序を感じる。ジャゴケやゼニゴケからは感じられないので苦手。全般的に葉状体は繁殖力が強くてすぐによその苔を駆逐するし、伸びる規則性が感じられないので混沌を感じる。
こういうアオギヌゴケぽいような、サナダゴケぽいようなのは苦手。図鑑と首っ引きにならないとわからないのに、分かってもあんまり達成感がないというか、次に見たときに覚えていられる自信がない。きれいだとは思うのですが。
ハイゴケの蒴に渡される蜘蛛の糸。蒴柄は案外丈夫なので、蜘蛛もそれを知って利用しているのかもしれない。ちなみに奥は川。
大河ドラマ「真田丸」を見ているせいか、蒴が人の頭に見えて、突撃する足軽たちにも見える。
いつも葉ばかり見ているからちょっと新鮮に感じたネズミノオゴケの蒴。スギゴケレベルの大きな蒴で、蒴歯まできちんと撮れたのがうれしい。これが開いて胞子が飛んでいくのです。ちょっと紫がかって大人な感じ。
まだ苔になりきれていないように見えるところから、スギゴケライクの立派な蒴が出ている。なんとなくハミズゴケだと思うんだけど、いかんせん葉が小さすぎて調べようがない。これは去年も見かけたので、今年もまた会えてうれしい。本当に少しだけなので、採取して調べるわけにもいかず、自分の中だけでハミズゴケということにしておく。
苔のおもしろさに気づかされてちょうど1年。当時はまだルーペの見方も知らず(今もルーペを使わずにマクロ撮影ができるカメラばかり使っているので、あまり上達していない)、iPhoneとルーペを組み合わせてマクロ撮影をしていた。手が滑ってiPhoneのカメラ近くのガラスを割ったのもいい思い出。あの時に比べるとかなり知識がついたのは、やはりそれなりに苔を好きだと思っているせいだろう。
これから多くの苔が蒴をつける、観察には一番いいシーズン。今年はたくさん山に行きたい。そして知らないものをたくさん見たい。
[amazonjs asin=”4582535070″ locale=”JP” title=”日本の野生植物―コケ”]
コメント