第45回読書部 ミロラド・パヴィチ『ハザール事典』

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【ネタバレを含む記事です】

読書部は隔月で「1人ではなんとなく読む気にならないけど、他人の意見は気になる」本について、都内某所に集まってお話する会。今回の課題図書はミロラド・パヴィチ『ハザール事典』です。男性版・女性版、さらにはハードカバーと文庫がありますが、参加に際しては特に制限を設けないことにしましたが、やはりハードカバーと文庫ではノンブルが異なるために、文庫でノンブルを言ってもハードカバーのノンブルがすぐに分かるわけではないので、これについては失敗。やはり判型は揃えるべきでした。
しかも、今回は通常のルノアールではなく、スペースマーケットで場所を探しましたが、やはりルノアールと比較すると高い。個人的にはルノアールのたばこがほんのちょっと混じった臭いがあまり好きではないために新天地を探す目的で踏み切ったのですが、開催後のアンケートではほとんどの人がルノアール支持。飲み物がついて4時間居続けられて1700円くらいというのは、やはり破格です。

さて、今回の『ハザール事典』はわたしにとって思い入れ深い作品。7世紀頃、キエフ付近に作られた謎の民族ハザール人は、珍しく(唯一?)自発的に改宗を行った国。当時の神話的なパートと、中世に入ってから『ハザール事典』が編纂された由来、さらに20世紀になって再び『ハザール事典』について研究する人たちを巻き込んだ、歴史事典という形式をとった小説です。初めて読んだのは7年くらい前か、あまりの熱狂に他に出ていたハザールに関する研究書まで読みました。

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と1人盛り上がっていたところ、「最初の方だけおもしろいけど、後半は退屈」という意見がちらほら。ファンと楽しめない層に偶然座席が分かれてしまい、かつノンブルの差異によっておもしろさが伝わりきらなかったというのが第一の反省。もう一つは登場人物が多いので前もって図式化しておくことで関連性(特に16世紀から20世紀にかけての転生)が分かりやすくなっただろうにさぼったこと。ホワイトボード一つあればなんとかなるかと思っていたが、大きく書こうとすると書き切れずに途中で消す羽目に。紙なり電子情報なりで渡しておくべきでした。関連図は以下の通り。

8〜9世紀 16世紀 20世紀
アテー ヴァージニア・アテー
※キリスト教徒 サムエル・コーエン ドロタ・シュルツ博士
※イスラム教徒 ユースフ・マスーディ(?) ムアヴィア・アブゥ・カビル博士
※ユダヤ教徒 アヴラム・ブランコヴィチ イサイロ・スゥク博士
※キリスト教圏の悪魔 ヤビル・イブン・アクシャニ(鼻の穴がつながっている) ヴァン・デル・スパーク家母
※イスラム教圏の悪魔 ヤビル・イブン・アクシャニ(白い甲羅の楽器) ヴァン・デル・スパーク家父(イサイロ・スゥク博士殺害犯)
※ユダヤ教圏の悪魔 エフロシニア・ルカレヴィチ(親指が2本) ヴァン・デル・スパーク家息子(ムアヴィア博士殺害犯)

本書が「赤色の書(キリスト教)」「緑色の書(イスラム教)」「黄色の書(ユダヤ教)」と、ハザールについて視点をわけて書かれているのと同様に、人物と悪魔も対応していると考えられる。

他にも王女アテーがハザール語を忘れてしまった際に登場した鍵が、20世紀になってイサイロ・スゥク博士の口から見つかったりと、小道具がつながって意味をなすことが多い。一方で、詩人でもある作者の韜晦な暗喩がちりばめられて、小道具が隠されてしまうこともあり、関連性を見つけるのは容易ではない。実は巻末の「関連文書1・2」を先に読んで置いた方が物語のつながりを読み解きやすい。

また、最も話題になりやすい「男性版と女性版のちがい」については、「出会い系か」と憤る向きもありましたが、女性版の方がより本書の構造を分かりやすくしている。個人的に男性版は袋小路に陥れられるような無力感を覚えました。なので、これから読まれる方はぜひ女性版をおすすめする次第です。

次回読書会は3月27日(日)、課題図書はスティーブ・エリクソン『Xのアーチ』(集英社文庫)です。よろしくお願いします。

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