国立科学博物館日本館を苔の目で見る

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イリオモテヤマネコの剥製
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苔を観察する人はよく「苔の目」という。苔に興味がない人には苔の目がないから苔を見つけられない、苔の目ができると苔が視野に入ってくる。たぶんにこれはどのジャンルにも言えることで、植物に限ることもない。SFに興味ない人はSFに関する情報は入ってこないし、自動車に興味ない人はトヨタとホンダのちがいもわからないだろう。ただ、苔の場合にはっきりとちがうのは、肉眼では苔単体の姿を見ることが難しいことだろう。大きいスギゴケでも数cm、ハマキゴケやホンモンジゴケなどになったら1mm単位の大きさで、ルーペがあっても個体を見分けるのが難しかったりする。意識していても見分けられないが、それでも苔があることは分かる、それが「苔の目」なのかもしれない。

国立科学博物館の日本館には、鉱物から動物まで幅広い数の標本が展示されている。初めてしっかりと見て回ったのだが、こんなにも日本の自然はおもしろいものかと感心した。

地衣類の展示

地衣類の展示

ヒョウタン展を見終えたら、反対側には数々の機械が展示されている。顕微鏡、望遠鏡、時計、地震計。考えてみたら地震計を目にするのは初めてかもしれない。そもそも時計が日本でいつ頃から使われたのかなんて、全然知らなかった。落語で有名な「いま何時でい」の「時そば」という話があるが、あれは時計を見て時刻を言っていたのだろうか? 江戸や明治初期はまだまだ携帯できる時計などなかったようで、今回の展示を見て昔の時計がいかに大きかったか、懐中時計は明治後期に一般化されたなど、いろいろ発見が多い。江戸東京博物館などもそうだが、教科書に載っていないようなことって人生の役に立たないのになんでこんなにおもしろいんだろうと思う。大島弓子先生も締め切りに追われると当時暮らしていた武蔵野の歴史などを調べてしまうと描いていたことがありましたね。

苔の展示

苔の展示

階段を上ると日本固有生物のフロア。学生の頃からなんとなく絶滅危惧種や日本固有の生物に興味はあったけど、どうやって勉強したり仕事に結びつけたりすればいいのかわからなかった。お金をかせぐことはできなさそうだけど、それでも当時の興味が今につながっていると思うと、性格や興味は変わっているようで変わらないものだと思う。ここでは日本固有の苔「ハイヒバゴケ」が、黄色くなった日向バージョンと緑が深い日陰バージョンで展示されている。でも、もさもさっと集まっているだけで、葉の形がどうなっているか、蒴は出るのか出ないのかなど、詳細は明記されていないのが残念。苔のおもしろさはやっぱり肉眼で見たときのぼんやりした感じから、ルーペや顕微鏡を使ってくっきりした葉の形などの詳細へズームインした時の変化だと思うので、ルーペなどのフォローが欲しい。

ハイヒバゴケ

ハイヒバゴケ


日本固有種ハイヒバゴケの解説

日本固有種ハイヒバゴケの解説

おもしろい苔はおもしろい岩に生える。東京近郊だと秩父から奥多摩へ続くカルシウムを含む山地に、いい苔がある。苔の話ではないが、維管束植物(植物体の中に水が通る管がある、いわゆる普通の植物)にもカルシウムを含む岩地だけに生息する種があるという。ほかにも鉱物を含む蛇紋岩など、苔の生育と生育する場所(基物)には大きな関係があるとものの本で読んだので、苔を愛する者は地面も愛さねばならないと思う。博物館には日本でとれた鉱物の部屋もあり、各地の鉱山でとれた希少な宝石なども展示されているが、苔の目からすると「この鉱山近くなら変わった岩に生える変わった苔が見られるかもしれない」というよこしまな期待を抱いてしまう。

蛇紋岩

蛇紋岩

植物や動物を展示するにはこれだけ大きな建物が必要になるけど、苔を展示する博物館があったらかなり狭い場所でも可能ではないかと夢想する。きれいな水と温度調節さえきちんとできれば、多くの種を育てつつ観察もできる博物館ができるのではないか。

国立科学博物館には子ども連れがたくさん来る。多くの子どもは解説のタッチパネルを触るのが楽しみなようで、引率の人から「展示も見てねー」と注意されていた。一方で、ボランティアで地衣類の解説をするおじいさんの近くに女子高生が集まって歓声が上がったりと、伝わる人にはきちんと伝わっている感触もある。知識を吸収するための場所があり、見て触れてと五感を刺激することで学んでいくことができるのはすばらしいことだと感心した。

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