ジョン・ウィリアムズ『ストーナー』(作品社)

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桜が散りもうさすがにコートは不要になった昨今、会社の用事で出社前にあちこち出かけることが多くなった。それまでは9時には会社に着いて仕事を始めていたが、今では11時頃出社もおかしくない。そうすると午前中に人々がしていることというのが少しだけ目に入る。開店準備をするお店、古本屋はさすがにまだ開いていない。酒屋は年老いた店主がビールケースをてこの要領で持ち運び、原付の荷台に紐もかけずに載せて近所の中華料理店に運び込む。駅前まで出るとパチンコ店の前にスーツを着たサラリーマンや、大学生風の人たちが列を作っている。開店前に並んで、よく出る席を確保するそうだ。

彼らにとってのよろこびについて、作品社から出た『ストーナー』を読んでぼんやりと対比させて考えていた。

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日本翻訳大賞の読者賞に選ばれた本作品は、書店で軽く立ち読みしたらまったく目が離せなくなった。物語の視点が主人公ストーナーからぶれない。そして序盤で彼に恩寵の光が降り注ぎ、本当の物語が始まる。彼自身が制御しようとしないために不幸なことがたくさん訪れる。それでも彼には光が当たり続け、それは自分自身が導いた光だと思うのだ。

翻って、駅前に列を作る人たちには、そしてわたし自身には光が当たっているだろうか。己に光が当たるためには、努力し続けなくてはいけない。努力と思っているうちは苦かもしれないが、続けていくことでそれが道になる。そんな凡庸な言葉でしか言い表すことができないけれども、光が当たっている人は美しいことにもはっとする、すばらしい一冊でした。命の間際まで訳し続けてくれた東江一紀氏に、そして出版してくれた作品社深い感謝を。

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