某猛禽類のふくろうならぬ鶴の一声で決まったピンチョン『重力の虹』読書会が決まったのは、開催1ヶ月前だった。解説を含めると上下巻1500ページにも及ぶ大著に何人が参加してくれるのか……、自分が読めるかどうかすら考えずに安請け合いした読書会だったが、結局のところ12名と定員オーバーの申し込み。うれしさの反面、いざ取りかかってみるとこれほどつらい読書は人生において記憶がないほどの難物。己が読んでいるのは現代日本語のはずなのに、いくら読んでも終わらないし、いくら読んでもよく分からない。2部に入ると時折物語の裾をつかんだように思えても、すぐに手が滑って五里霧中。それでも読書会が近づくにつれ、一人また一人と読了報告があり、結局読了できなかったのは参加者でも一人だけ(もうすぐ読了)というまたもうれしい驚き。わたしたちは『重力の虹』を通じて何を語ることができるのか、そんな不安も盛況のうちに幕を閉じたのでした。
いつもの通り、簡単なメモから、当日話された内容を一部箇条書きに。もちろんネタバレ全開ですのでご容赦ください。
- スロースロップの熱さ
- たくさんのウィンドウが開いているパソコンで仕事をするようなめまぐるしさ
- 「百科全書的」という形容は、物語の筋が一つだけでなく、複数の解釈をも残している
- おもしろいところと全体の意味がつかめないところが混在している。再読するとつながりが見えるようになりそう
- ポインツマンやエンツィアンの熱さ、矜持がよかった
- トマス・ピンチョン (現代作家ガイド)
が『重力の虹』を3ページでまとめていたのに一堂驚愕!
- スロースロップはどうなったのか → 拡散されてばらばらになった(ロケット技術の象徴的表現で、戦後アメリカやソ連に技術が流出してしまったことにより、スロースロップも認識できなくなった。つまり、ドイツのロケット技術=スロースロップ)
- ロケット番号00000(♀)はゴッドフリートを乗せて(焼いて)飛ぶが、スロースロップと思われる00001は飛んでいない?
- ロジャー・メキシコとジェシカの関係がわかりやすくおもしろい
- 語り手の視点の変換に気づきづらい
- 豚のフリーダとともに旅をするところがわかりやすくおもしろい
- 蟹で戦うところがわかりやすく、かつそこまでしてようやくスロースロップが「陰謀か」と気づくところがおもしろい
- ピンチョン節とそれを訳文にきちんとのせてきた訳者がすごい
- 戦争技術が分解されるけど受け継がれていく話が通底として流れている
- IGファルベンやシーメンスなど、当時の軍需に協力した企業について調べるともっとおもしろく読めるかも
- まんがだと『ヘルシング』、浦沢直樹『Monster』に近さを感じる
- <ゾーン>は連合国の支配地域。<ゾーン>が分かれるとは、実効支配が国によって異なること?
- スロースロップは、ロンドン以外ではなぜFuckしてもロケットが落ちてこないのか?
- WW2でドイツを舞台にしているにも関わらず、ナチスの陰が薄い
- ゴットフリートとスロースロップはパラレルである説
- 後半はu_ki666の独擅場に
今回、会場は普段使っている某喫茶店会議室ではなく、初台にあるfuzkueさんの営業していない時間帯をお借りしました。カレーやコーヒーも依頼すれば提供いただけるので、10名程度の読書会にはすごくよさそうです。
次回読書会は記念すべき第40回、課題図書はミハル・アイヴァス『黄金時代』で3月22日(日)に都内某所で開催します。弊社読書部は、ちょっと難しい感じの海外文学をなるべく敷居低くお話する会であります。残り枠は3/1時点であと5名。よろしくお願いします。
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