またもぎりぎりになって川瀬巴水展@大田区立郷土博物館


最寄りが西馬込駅という東京の割には辺鄙な場所にある大田区立郷土博物館。そこで川瀬巴水の展覧会があるという。川瀬巴水は少し見かけたくらいの知識しかなかったが、遺作となった中尊寺の階段を登る僧侶の姿が目に焼き付いていたので、絶対に行きたいと思っていた。しかし、結局は終了間際に飛び込むことに。入場料無料が嬉しい。

入っていきなり求めていた「平泉金色堂」が2点。寺に音もなく降り積もる雪を背景に、背中で語る男のかっこよさ。絶筆となる寂しさのようなものも感じられるのは勝手な想像かもしれない、と心で手を合わせて詫びながらじっと見る。この作品に限らず、川瀬巴水の作品には「増上寺の雪」を始めとして、雪や雨が降っているものが多い。当時、日本の版画が海外で好評が故に、単なる風景画ではなく装飾的な効果として雨・雪が使われたのだろうか? 作品のスケッチも並べて置かれていたが、たいてい夏に取材しているようで、そんな場所でも版画になると雨や雪が降っている情景になる。

後期展示のせいか、序盤から終戦直後に描かれた作品が紹介されている。しばらく見ていると、1950年代に入って作品が急にデフォルメされることに気づく。明らかに終戦直後とは作風が変わっている。わずか5年でこれほど作風が変わっているなら、若いころからの変遷も見ておきたかったと悔やむが、後の祭り。画集も既に売り切れていた。

関東の田舎をよく旅していたようで、わたしの実家から比較的近い、涸沼や金郷村にも立ち寄っている。また、ホテルからの依頼で描かれた作品は明らかに線の数が少なく、自発的なものではない、「お仕事」という感じがひしひし伝わって、それもまたおもしろい。幼少の頃から物語が好きだったという巴水は、各地それぞれの地名をタイトルにすることによって、見る人にとってのその人の思い出も作品に詰め込もうと考えたのではないか。そして作品を見た後でその土地に立ち寄った人にも、ああ巴水の版画で描かれたのはこの辺りか、と記憶に残るように、ただの風景とそこで働く名もない人を写しとったのではないか。そこに巴水の優しい視点、自然と人を愛するやわらかい視点が入ることで、見ている方も日本の原風景を見出してしまうのだと思う。前衛が力を伸ばしていた時に描かれたという時代的な背景にもまた、巴水の意志の強さを感じる。

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