『ブラインド・サイド』と「幸せの隠れ場所」


今年のスーパーボウルではボルティモア・レイブンズが勝利して12年ぶりに優勝した。引退を表明していたディフェンスの要レイ・ルイスの動きが注目されていたが、個人的な見解では彼の動きの悪さが原因で、後半に追い詰められたと思う。表向きは優勝で花道を締めくくった形だが、もう一つ注目されていた物語がある。『ブラインド・サイド』で取り上げられたマイケル・オアーだ。

貧民街でジャンキーな母親にネグレクトされ、施設を渡り歩いた後、ふとした偶然で裕福な白人コミュニティで育てられたマイケル・オアー。勉強は全くできなかったが、恵まれた体格で将来を嘱望される。個人教師などをつけてなんとか大学に入学、その後は学業もきちんとこなし、スポーツでも注目され、ドラフト1巡でNFL入り、というシンデレラストーリーだ。そのエピソードに加えて、なぜNFLでクォーターバックを守るラインマン、特に右利きのクォーターバックにとって背中側を守るレフトタックルのポジションが注目されて給料が高騰したかを解説しているのがマイケル・ルイス『ブラインド・サイド アメフトがもたらした奇蹟 』(RHブックス・プラス)だ。感動のエピソードの裏には、同じメンフィスの街で育ってスポーツが優秀でも学業がふるわなかったり、激高しやすい性格で災いを寄せ付けてしまって高校や大学でドロップアウトしてしまう少年たちの姿も浮かんでくる。本書中に「黒人の優秀な選手が全員プロに入れたら、チームがあと倍は必要になる」という言葉が印象的だった。それほど身体的に恵まれながら、貧困や犯罪によって将来を阻まれてしまう人々が大勢いる。しかし、全員を救うことは今のところ誰にもできていないという悲しい現実も浮き彫りにしている。

『ブラインド・サイド』が映画化されたのが「しあわせの隠れ場所」だ。一見して「隠れ・場所」という語呂の悪さに不安を感じたが、予測は見事に的中。ニューズウィークのレビューに付け加えることはほとんどない。サンドラ・ブロックがノースリーブで胸が大胆に空いたワンピースで、貧民街に乗り込んでいってマイケルを探すシーンは、悪に立ち向かう女性が空回りしていて目を覆った。善が独善にまで至ってしまい、物語を分かりやすくしようとして実際のアン・リーのキャラクターを壊してしまっているのだ。そのほかにも、フットボールコーチを極端に無能にすることで不要な笑いとサンドラの有能さをアピールする材料にしたり、マイケルが絶対に合わせなかった実の母親にサンドラはずけずけと会いに行ったりするところも、映画ならではの乱暴な演出に感じられた。実話を元にした映画はディティールを壊すと興ざめになるということを教えてくれた、そういう意味ではためになった。

現実の方はシンデレラストーリーが見事、スーパーボウル優勝というハッピーエンドを迎えた。マイケル・オアーが家族とその幸せを分かち合えたことに、読者である自分も幸せの一部をいただいた気分になった。

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