国会図書館で蘚苔地衣雑報を見てきた

Bryophytes
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コケに関する文献は市販のものに限ると新刊・古本ともに案外流通している(築地書館の『日本産苔類図鑑』は別だけど。復刊してください!)。でも、文系のコケ好きとしては、やはり文字で書かれたものを追いかけてしまう傾向があり、一通りの本を集めてしまうと、次にたどり着くのは論文。

学名どころか和名もろくに覚えていないのに論文とはおそれおおいのだけど、意外にもコケの論文は読みやすいものが多い。分類学が中心なので化学式や数式がほとんど出てこないのは大きな要因だけど、分類学がもつ性質にもよるのかも。あるコケがあるところで見つかったという記事がけっこう多い。気温などの気候や地質などからコケの存在が確認できると、近場の似たような場所でも見つかるかもしれないという予測ができる。書籍には書かれていない情報がたくさん詰まっているのです。

しかしながらコケは所詮隠花植物、日影に佇む存在なのを裏付けるかのように、コケの論文を読むことができる場所は少ない。大学図書館が使えればいいのでしょうが、わたしのような庶民は国会図書館を頼るのみ。コケの論文は日本蘚苔類学会が発行している「蘚苔類研究」と「日本蘚苔類学会会報」が主流です。しかし、調べてみると過去には他にも発行している団体があり、今日見つけたのはコケ界隈の最高到達地点である服部植物研究所が発行していた「蘚苔地衣雑報」。第1号は1955年で、服部先生の序言からはじまり、タイトル通り蘚苔類と地衣類についての研究結果がまとめられている。カジュアルな内容も多くて、「○○氏は7月から2ヵ月間の出張」とか購読者の住所氏名が一覧で掲載されていたりと、今ではなかなかありえない内容で楽しい。なお、この年に井上浩先生が卒業論文として「秩父・多摩国立公園のクラマゴケモドキ科苔類の分類及び分布」を提出したというのも感慨深い。

服部先生は自ら植物研究所を興して蘚苔類の研究における第一人者でありながら、この論文集では「万葉集に”こけ”を探す」という文系な研究結果も残されています。終戦から10年しかたっていない時代に「戦時中の憂さ払ひを思ひ出す」とあり、戦争を経験しながら少ない物資でコケを研究することの大変さに思い至る。

コケが好きというとどうしても育てたり野外に出たり顕微鏡を見たりと理系な面に偏るし、実際種名が分からないと始まらないことも多い。でも、こういう歴史的な面からもコケを楽しめて、東京に住んでいるからには国会図書館を積極的に利用していきたい。今は遠隔で複写申込もできますが、その場で当時の印刷物を手に取るのもまた楽しいものです。紙の質や活版印刷の凹み、何がわかっていて何がわかっていなかったのか、当時の空気みたいなものが雑誌には詰まっているのかも。そう考えると昨今の雑誌の凋落は、単にインターネットに情報を奪われただけでなく、時代の空気を反映できていない(する時間がない)ということなのかな?

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