アーシュラ・K. ル=グウィン『天のろくろ』(ブッキング)

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天のろくろ (fukkan.com)

「『ゲド戦記』のル=グウィンによる「夢」と「現実」をテーマにした近未来SF」という帯はまちがっていない。まちがっていないんだが、「ル=グウィンってこんなにおぼつかない足取りだったっけ?」と疑いたくなるようなawkwardな印象。

見た夢が現実の誰にも気づかれず現実を変革してしまう能力を持った主人公オアは、自分の能力に恐怖を感じて麻薬に手を出して夢を見ないように努めてきたが、当然無理がたたって精神病院に搬入されることになる。そこで精神科医ヘイバーにより夢をコントロールする治療を受けるが、ヘイバーは無意識にオアの夢を利用して世界を自分の理想に近づけようとする。

技術を悪用する科学者と、それを止める主人公ってSFの王道だと思うのだけど、「夢が現実になった」というのが主人公にさえおぼろげにしか感知できず、実際の夢のように元の現実をすぐに忘れてしまうため、個々の変化した世界がト書きだけで終わってしまい、生々しさが足りないように感じられる。主人公オアが「現実を変えたくない」という一心だけで、能力を有効活用せずに停止させるだけしか望まないというところも歯がゆい。彼のニュートラルさをひっぱるのが悪の科学者だけで、正義方面のキャラクターがいるにはいるが弱い。結果として同じパターンの繰り返しが続いてしまい退屈した。

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