リチャード・カウパー『クローン』(サンリオSF文庫)


猿が共産主義的階級闘争を人間に挑んでいる2070年代。天才的記憶を持つ男女のクローンとして4人の少年が生まれたが、彼らのおそるべき力はフランス人なもんでいきなりエロに向けられたため、怒った女医が記憶を消すガスを噴射し、4人は記憶と能力を消失し、別々に暮らすことになった。そのうちの一人アルヴィンが哲学的な猿ノーバートと共に暮らすところから始まる。ロンドンへの旅の途中、暴徒の同士討ちに巻き込まれ、アルヴィンはずっと幻想だと思っていた天使のような美少女チェリルに出会い、やがて新たな自分に気づいていく。

帯の文章は「世界を変容させかねない潜在力をもつクローンに危機が!?痛烈をきわめる風刺的SF」。

本書では20世紀末から公に語らるようになったクローンの倫理的な問題にまでは踏み込んでいない。それどころか、特殊なガスで暴動を起こす人々を同士討ちさせて虐殺したりするように、人の生死は存外軽く扱われている。書かれた時代が1970年代だと、クローンや暴動における死の扱いが現代の目から見るとぞんざいに見えることが興味深い。この40年間で、世界の人々の倫理観は大きく変わったことを実感する。

一番おもしろいところは、猿が人間との階級闘争を展開していることだ。本書が書かれたのはアメリカ公民権運動の直後であり、黒人の地位向上の運動と重なるところもあるが、そのへんの感覚がフランスではどうだったのか。当時のフランスでは共産主義が積極的に受け入れられていたので、その両方の要素があるんだと思う。本書では「猿(チンパンジー)」を極端に忌み嫌う人もいれば、同じ「類人猿」として積極的に受け入れる者もおり、多かれ少なかれ黒人のメタファーとしては使われているように思う。

ストーリーとしては実は目新しいところはあまりない。SF的な裏付けもほとんどない。ひとりずつだとあまり能力を発揮できないクローンが4人合体すると服を脱がしたり核ミサイルを遠隔操作で爆発できるくらい無敵。でも、そこに至るまでの物語のバランスがよくて、飽きずに一気に読める。エロいところとか、過激なところを除けばジュブナイルSFとも言えそう。もっとも、過激なところを省いたらおもしろさは半減以下です。

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