苔をたずねて三千里

苔の写真を撮り、海外文学を読んでいます。

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苔観察日記:北八ヶ岳はハイレベルな苔の楽園

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北八ヶ岳苔の会が主催する観察会に参加してきました。苔を見始めて1年が過ぎ、とうとう聖地の一つにデビュー。正直なところ、こんなに早くデビューするつもりはなかった。たかだか1年で両手の指くらいしか立派な苔を見ていない。普段から気にとめてはいるけれども、はたして自分に八ヶ岳の苔を判別できるのか、八ヶ岳の苔をおもしろいとか美しいとか感じられるのか心配でした。しかし、それは杞憂。日本の貴重なコケの森会員番号7番は伊達ではない。地元の人が「苔は八ヶ岳に住む次の世代に残す財産」とおっしゃるように、小さい子供からマニアまで気軽に訪れることができる苔の楽園なのです。

東京から新幹線で1時間、佐久平駅でバスに乗り換えてさらに1.5時間と決してアクセス良好なわけではありません。「バスは1日1度来る」という歌がありましたが、決して冗談ではないのです(とはいえ、山頂には電気もガスもあります)。初日は、いかにも山の雨がしとしととすべてを濡らしていきます。この会で巡る道は、さほど高低差のないルートなので大きめの傘を持ってきて正解。田んぼのようなぬかるみもあるので、長靴も必須です。7月でも10度くらいまで下がると聞いていたので心配していたけど、ダウンは使わず、フリースとヤッケで十分。手袋も不要でした。

雨の北八ヶ岳

雨の北八ヶ岳

当日はしっとりとした雨。しかし、苔愛好家たちは「濡れている苔こそ至高」の人たちなので、誰一人文句を言うことなく観察開始。先導してくれる先生に参加者は続いていくわけですが、約20人もいるので最後尾は先生の話が聞こえません。そのあたりはボランティアの方がフォローしてくれるので、いつも寄り道ばかりで最後尾になりがちなわたしには大変助かります。

セイタカスギゴケ

セイタカスギゴケ

バス停を下りてすぐに目に入るのがセイタカスギゴケの群落。単一の苔の群落がこれほど大きいのを見るのも初めてなら、5cm以上の苔を見るのも初めてなので、幻の世界に迷い込んだような気持ちになりました。驚きとともに、これから見たことのない世界に入り込み、見たことのない苔が見られるという混じりけのない期待が湧き起こります。この時ほど何も考えずに未来が楽しみだったことは、子供の頃以来でしょうか。

ウグイスゴケ?

ウグイスゴケ?

藻類と菌類が合体してうまれる地衣類も、八ヶ岳では色が濃い。普段見ている種はゾンビのような白さなのですが、ここでは藻類が元気なせいか、緑色が強く、胞子を出す子実体をつけているものも目立つ。特にタワー型の樹状体は、藻類と菌類が層を重ねて徐々に伸びていくもので、大きく育つまでに時間がかかる(はず)。わたしの目には建造物のように高くそびえて見える地衣類たちは、どれだけの時を経てここまで成長したのかを想像するだけでもおもしろい。

ダチョウゴケ

ダチョウゴケ

ダチョウの羽に似ているとことから名付けられたダチョウゴケ。ハイゴケの仲間は枝と枝の間隔が開いているものが多いけど、これは幅が狭いから全体が図形のように見えるのでキャッチー。ハイゴケはなんとなく丈夫で環境の変化に強いイメージがあるけど、ダチョウゴケは亜高山帯でないと見られないらしい。観察地点でも10cmくらいある大きなチシマシッポゴケや、ミズゴケ、セイタカスギゴケはよく群生を作っていたけど、ダチョウゴケはしっかり観察しないと見つからない。

ウロコミズゴケ?

ウロコミズゴケ?

八ヶ岳の目的の一つ、ミズゴケも無事に見られました。そこここで群落になっていて、イギリスの湖水地方で取れる泥炭の原料とほとんど同じ種のはず。この苔が長く地面に埋まって泥炭になったり、平安時代の日本では枕の中身に使われたとか、人間に利用されてきたことを想像しながら歩きました。今の日本では特別な場所にしか生息していませんが、大気汚染がなかった頃の日本では普通に生えていたのかもしれません。

ムツデチョウチンゴケ

ムツデチョウチンゴケ

葉の皺に光が当たるとキラキラと輝くムツデチョウチンゴケは、図鑑でだけ見ていたあこがれの種。これも見られるとは思っていなかったので、本当にびっくりした。「ムツデ」は蒴の数を指しているそうで、多いときには6本の蒴柄が出るとか。地元のマスコットにもなっているように、誰にでもわかりやすい美しさがある。

エゾチョウチンゴケは先端が無性芽で繁殖する

エゾチョウチンゴケは先端が無性芽で繁殖する

先端が無性芽のエゾチョウチンゴケも関東界隈ではそうそうお目にかかれない。チョウチンゴケ特有の透明感と、細く立ち並ぶ無性芽の取り合わせは幽玄ともいえる美しさ。所々に楚々として生えているのもいじましい。

イボカタウロコゴケ?

イボカタウロコゴケ?

北八ヶ岳は観察会ということもあり、どうしてもとどまれる時間に制限が出てしまう。蘚類よりも小さい苔類は、見つけたり観察するのに不向きで、歩きながら「見落とした苔類がいるにちがいない」という一種の後悔につきまとわれてしまう。ちょっとした時間に苔類がいそうな場所にカメラを向けただけでわんさと見たことのない苔類が見つかるのだから、しっかり時間をかけたらいかほどだろう!

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出かける前に気になっていたのは、八ヶ岳で見られる苔は何かということ。植物の図鑑や花の図鑑は、よく土地ごとの花などを掲載しているけれども、苔に関しては八ヶ岳に限らずほとんど情報がない。苔が人気とはいえよくわからないと思われる理由はこのあたりにあるのではないか。初心者は造形を見ないで名前ばかり知りたがると批判されたりするが、素人とはそういうものではないか。言葉を手がかりにしないと苔という山に登ることができない。だから、まずはわかりやすい名前だけでも提示すべきで、そういう点で八ヶ岳で生えている苔の図鑑『北八ヶ岳コケ図鑑』はちょうどいい。詳しすぎず写真が大きく種類も豊富。小さい苔類よりも大きな蘚類を優先して掲載しているので、初心者でも図鑑と実物を比較してかなりの数を同定することができる。

ともかく、北八ヶ岳の苔はすごい。死ぬまでに一度は見るべきだということですし、わたしは来年以降も必ず行きます! この観察会なら、下記のようなガイドマップは一切不要です。

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