苔をたずねて三千里

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日本一の画家と断言できる河鍋暁斎展を見てきた

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百円の烏

百円の烏

日本、特に江戸の時代は町民文化などとも言われ、様々な文化が花開いた。特に絵画の分野は後に海外でジャポニズムとして逆黒船のように扱われるほど、独自の優れた発展を遂げた。室町から続く狩野派は御用絵師として絶対的な勢力を築き上げる一方でオリジナリティを失っていく。そこに現れるのが写生から独自の細密さを作り上げる円山応挙。浮世絵や山水画など次々に名作が生まれた江戸時代を最後に飾るスーパースターの一人がこの河鍋暁斎。鹿鳴館を設計するようなイギリスの名建築家ジョサイア・コンドルが惚れ込んで弟子入りし、河鍋暁英(英は英国の英)と命名してしまうほどの一大画家だが、器用すぎる画風のせいか残念ながら日本ではあまり評価されずに、作品はジャポニズムに影響を受けた海外のコレクターに買われてしまう。

わたしが初めて河鍋暁斎に驚いたのは大人になって展覧会に行くようになってすぐの頃。あのでっかい化け猫に誰しもびっくりするように素直に驚いた。「え、こんなまじめにボケてる絵が存在していいんだ」という驚き。今回実物が展示されているが、絵自体は文庫本の挿絵程度の大きさで、思っていたよりずっと小さいのに改めてびっくり。

「化け猫」

「化け猫」

今回の展覧会では、埼玉にある河鍋暁斎記念美術館収蔵品はもちろん、120年ぶりに日本に戻ってきたメトロポリタン美術館収蔵品も含まれている。特に伝統的な日本画の手法で描かれた動物たちが多く、それでいて目つきがおかしかったり、構図が変だったりして、見ている人を笑わせようとする。

蛙を捕まえる猫図

蛙を捕まえる猫図

現代のまんがと同じように描かれる蛙の驚いた目。虎ではなく猫のすっと伸びた左前足、しっかりとにらみつける目つきがかっこいい。「兎は蛙食べないでしょ」と誰しもつっこむ「蜥蜴と兎図」や、十牛図をモチーフにした「牛と牧童図」は日本でこの先見られるのはいつの日か、と絵とはちがうことを考えてしまいながらも、線のリズムと躍動感を楽しんだ。弟子入りした河鍋暁英の絵と比べると、線のおもいきりや、関節の柔らかさが感じられ、歴然とした出来の差が見られる。

序盤に展示される「暁斎絵日記」を見れば誰しも「あ、山口晃の『すずしろ日記』といっしょだ」と思うのではないか。さらさらと書き留められた絵のメモは多くが人の手に渡って現存されたものは少ないようだが、筆で描かれる滑稽な表情や動きは、タイムマシンがあったら全部かき集めてきたい。

今回、展示物の高さが気になった。縦に長い掛け軸は下から見た方が迫力がある。しかし、現代の美術館では太田記念美術館のように畳の上に座って見ることができるわけではないので、どうしても立って見ることになる。そうすると、180cmの人と155cmの人では視線が異なる。今回、個人的にはかなり低い位置に展示されているように思え、そうすると下からの視線を確保するためにはしゃがまざるを得ない。土佐大蔵少輔藤原行光画 百鬼夜行図などは、上から見るのでは妖怪たちが小さく見えて落ちていくような動きだが、しゃがんで下から見ると棚などにしまわれていた器が妖怪に変身してあたかも自分に向かって落ちてくるような印象を受ける。どうしても細部まで見られるようにすると今の位置になるのはわかるのだけど、混んでいる時などはしゃがむの躊躇われるのがもどかしい。

「布袋の蝉取り図」のような禅画や山水画、英語にすると「Cats Catching Catfish」と韻を踏む「群猫釣鯰図」、浮世絵の様式から脱した美人画や、「美術手帖」で山口晃が熱く語る「放屁合戦図」のような笑い一辺倒まで、あらゆるジャンルを怪物的な力量で描きまくった河鍋暁斎。会期は今週末までですが、平日午前はだいぶゆったり見られる人出に落ち着いてきました。有給使ってもいくべきすばらしい展覧会です。

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