J・P・マンシェット『危険なささやき』(ハヤカワ・ミステリ文庫)
身近にマンシェット愛好家(TOPページはEUCでblogはShift-JISなのはMac泣かせであることよ)がいるので買っておいた一冊。古本放出で軒並みなくなった隣の部屋になぜかぽつりと残っており、暑くてむしむししているので考えなくて良さそうな本を読もうという意図で手に取る。
表紙誰だよ、と野暮なつっこみを入れつつ予想していた通りにさくさく読み進める。私立探偵タルポンが事件の依頼を受けると知人の警部から「金だけもらってほっておけ」とアドバイスが。別のちっぽけな横領事件と平行しておっかけてると依頼人がショッキングなことになり、普段は悪ぶってるタルポンもあっちこっちで悪人たちに探りを入れてはさらにおおごとに巻き込まれていく、実に安心できるつくりの親切ノワール。
ノワールの一番の楽しみは、なんといってもへらず口のおもしろさにありと信じているわたしにとっては、事件の詳細とか細やかな人間模様は二の次で苦笑してしまう名言を探してしまう。さすがにへらず口テキサスチャンプのランズデールにはかなわないけれど、マンシェットもなかなかのもの。なんだかんだで敵をまいたりやっつけたりするたびに相手の拳銃を奪ってきたタルポンは、最後の敵に見つかって頭に拳銃をつきつけられてしまう。
「あんたの拳銃、おれにくれないかな」とおれは続けた。「最近、日に二、三挺ずつ拾って歩いてるんだ。銃砲店でも開こうと思ってね。(P.204)
ちょっとかっこいい。生きるか死ぬかの瀬戸際になかなかこの台詞は言えませんよ。
こういう言い方でこんなことを言われると、やはりびっくりしてしまう。食べかけのヨーグルトが突然、はやくお仕舞いにして、苦しくて仕方ないんだ、と叫ぶのを聞いて驚くのと同じような感じだ(P.204)
おもしろい。この余裕だかロハスだか分からない発想の転換がじんわり染みて、「いきがっちゃって、もう」と主人公に共感しちゃうのです。仲間がウイスキー飲んでるときでもコーヒーを選んだり、仲間が将棋をしている間に一仕事しちゃったり、有能かもしれないけど端にいると迷惑、だからこそかっこいいタルポンちゃん。なんとなくおなかがタルポンなイメージですが、物語自体はソリッドでなかなかのおすすめです。1981年にアラン・ドロン主演兼監督で映画化もされているようですね。たぶんふつーにカーチェイスがあってふつーにボスと戦うような映像でしょうから見ません。





