メイン

ボイルド系 アーカイブ

2007年07月16日

矢作俊彦『ららら科学の子』(文藝春秋)

ららら科學の子
ららら科學の子
posted with amazlet on 07.07.16
矢作 俊彦
文藝春秋 (2003/09/25)
売り上げランキング: 180687

おもしろかった! と素直に言えない要素があるものの、全体としてとても爽快感があり、銃や探偵が出てこないハードボイルドとして、実に斬新な視点でかつ飽きさせない文章のスピードで珍しく一気に読み終えてしまいました。

学生運動華やかなりし頃、一人の学生がふとした拍子におたずねものになり、思想的な背景もあって中国へ高飛び。そこでは革命思想を学ぶ代わりに田舎に連れて行かれて30年以上百姓として貧しい生活を送る羽目になってしまう。しかし妻が都会へ出稼ぎに行ったことをきっかけに、日本へ戻る決意をし、密入国したところから物語は始まります。中国の田舎にはテレビが村に一台だけあったとはいえ、30年の間の世の中の出来事からすっぱり隔絶されていたウラシマ状態で戻ってきた彼に、昔の旧友が世話を焼いてくれるのでした。唯一の気がかりだった妹の消息を尋ねることになります。

妹との思い出や、彼女の現在との関係には泣かされました。ともあれば消息不明になった兄を疎んでいてもおかしくないのに、妹は今でも兄の記憶を大切にしている。また、兄も妹ほどではないけれども、両親よりも気遣っていた気持ちが写真屋の前で表れたところはぼろぼろ泣きました。現実なら「いまさら金目当てに帰ってきたなんて!」と拒絶されそうなものですが、そこはきちんと説得力のある文章でぐいぐい読まされます。

主人公が失踪した当時の話題がそこここに挿み込まれることで、現代史、また中国の一般人の生活についても勉強になってしまうお得な一冊。それほど勉強しているわけではありませんが、中国の文化大革命という壮大な人間による実験には大変興味があるので、そちらの側も楽しめて一粒で二度美味しかったです。でもこれを楽しく読めるのはおっさんかも……。ちょこちょこ挿まれるSFガジェット(「スターシップ・トゥルーパーズ」や『猫のゆりかご』など)もファンにはたまらないはず。

とはいえ、妹の件は流して終わったし、女子高生は結局なんだったのか分からないしで、小説として絶賛するというわけにはいかないのも事実。ちょっと読書スランプ中なんて時に、肩が凝らないけど無駄にならない読書として有効ではないでしょうか。

2007年07月29日

ジャン・パトリック・マンシェット『眠りなき狙撃者』(学研)

眠りなき狙撃者
眠りなき狙撃者
posted with amazlet on 07.07.29
ジャン‐パトリック マンシェット Jean‐Patrick Manchette 中条 省平
学習研究社 (1997/03)
売り上げランキング: 756941

学研から出ているマンシェットはそれほど厚くないしなんといっても割付が狭いので、とても早く読める。しかしそれにしてもなんと多くの人が殺されることだろうか、というのが第一印象。スプラッタかと思うほどさくさく殺されていく。それでも場面の展開に緩急があってそれぞれの死に重みがあるところがマンシェットのおもしろさ。ややドライすぎるほどだけど、話を転がしていくおもしろさは一級品。

傭兵上がりのマルタン・テリエは組織から足ぬけできず大切な人を殺されたり拉致されたりする、というのがあらすじだが、決定的に他のボイルド系とは異なるのがラスト。このラストには驚いたし、泣けた。また、テリエが10年以上懸想していたお嬢様アンヌがひどい女で、マイクル・コニイ『冬のこどもたち』といい勝負。本書からはがんばった男でも不器用だと報われない、という教訓を得ました。

About ボイルド系

ブログ「うぽれけにっき」のカテゴリ「ボイルド系」に投稿されたすべてのエントリーのアーカイブのページです。過去のものから新しいものへ順番に並んでいます。

前のカテゴリはブックガイドです。

次のカテゴリはマジック・リアリズムです。