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2007年02月04日

宮本信生『カストロ』(中公新書)

カストロ―民族主義と社会主義の狭間で
宮本 信生
中央公論社
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著者はキューバ大使を勤めたことがあり、執筆当時はチェコ大使。よって、社会主義体制国家の把握は現場レベルでの知識があり、信頼できるものだろう。キューバの輸出といえば砂糖に依存するような小国が、1960年代に世界全体の安全を左右する存在であり、今日まで大きな政変もなくカストロが首長として政権を握っているのはどんな理由からなのか知りたくて本書を手に取った。

しかし、一般的には確かな内容として評価の高い本書は、わたしにとっては不満が残るものだった。現在危篤状態が続いているカストロ議長の人物的側面を知りたいと思って手に取ったのだが、全体にアメリカとソ連、中国とどのように渡り合ったかという外交から見た歴史的な内容になっている。カストロの人物的な物語はほとんど語られないため、本書のタイトルは「キューバ」であるべきではないか。もちろん、20世紀後半のキューバ=カストロであることも事実だろうが。

また、ゲイや文学の弾圧など国内の状況はあまり描かれない。60年代後半、レイナルド・アレナス同様に大量の文化人がアメリカに亡命したことは取り上げられて生産性の減少につながったことは書かれているが、なぜ亡命という手段を選ばなくてはならなかったのかが読みたかったのだ。

しかしそれらはないものねだり。本書はあくまで外交的見地から社会主義国家としてのキューバについて取り上げているのである。それはカストロ兄弟(弟は軍事担当)の生涯でもある。カストロ政権は人の寿命によってもうすぐ終わるが、21世紀にどのような変化を見せるのか、本書の2010年版を読んでみたい。

2007年04月22日

川北稔『砂糖の世界史』(岩波ジュニア新書)

砂糖の世界史
砂糖の世界史
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川北 稔
岩波書店 (1996/07)
売り上げランキング: 41341

偶然100円で出会った本が実はとんでもない名著だったりすることがある。そういうときに古本を狙っていてよかったと思うし、おもしろい本というのは決して新刊だけにあるわけではないとも実感する。

本書が出た岩波ジュニア新書は意外な名著の宝庫でもある。先日亡くなられた名書評家の狐こと山村修氏の『"狐”が選んだ入門書』でも歴史系の入門書として2冊の岩波ジュニア新書が取り上げられているように、ことさら歴史マニアでもなければこの出版社は狙い所だ。下手に歴史に詳しい著者だとバランス感覚を欠いて、読者の望んでいる情報を書き漏らして自分の書きたいことだけが(興味のない読者にとっては)だらだらと続いているだけかもしれない。しかし、このシリーズは中高生向けということもあり、何よりもバランス感覚が重視され、それは人が歴史というものが現在につながっていることをきちんと意識させるように書かれているということだから、誰が読んでも「得した読書」になるように書かれている。

本書は砂糖が世界史にどう関わってきたかという観点から書かれており、それには黒人奴隷とプランテーションが大きな役割を果たしていることが中心になっている。アフリカから奴隷という労働力をアメリカに運び、アメリカからは綿や砂糖など原料系がヨーロッパに輸入され、ヨーロッパから銃や綿織物など加工されたものがアフリカに輸出される、いわゆる三角貿易を詳しく解説しています。

また、砂糖がヨーロッパで果たした役割についても知っているようで改めて気づいたこともたくさんありました。熱帯でないとできない砂糖は大変高価で、当時の貴族たちに重宝され、やがてお茶やコーヒー、カカオと組み合わされてチョコレートにされるなど、新しい味覚をヨーロッパにもたらすことになります。お茶やコーヒーは人々がこぞって求めるあまり、コーヒーハウスやイギリスの紅茶文化など、人と人が飲食物を介して意見を交換する場の形成にまで至ることになるのがおもしろい。やっぱりおいしいものはコミュニケーションに欠かせません。そののち、植物の改良などができるようになると、植民地のないロシアやドイツ(プロイセン)ではビート大根から砂糖を作るようになり、やがてそれが奴隷によるさとうきびからの生産を追い抜いてしまったのもおもしろい。寒いところの人を暖めるにはウォッカだけではダメで、糖分によって活力を得ていたのだろうと思うとおもしろい。日本でも東北や北関東は醤油と砂糖でほとんどのものが味つけられるように、寒いところでは砂糖がごちそうというのは万国共通なのです。

背表紙には「世界史Aを学ぶ人は必読」なんてありますが、砂糖の恩恵にあやかっている現代人必読の書であります。我々がいかに食文化を発達させてきて、それが意外にも歴史の表舞台にも大きく影響を与えてきたことが分かります。そして、現代では砂糖があまり重宝されておらず、砂糖に変わって甘みをもっていてもカロリーにならない人工甘味料が重視されていくだろうとしめくくっています。ここはわたしには反対で、正しいシャンパンを作るには補糖といって砂糖を追加することは欠かせませんし、料理にだって砂糖でなければ出せない独特のうまみがあります。従来のように歴史を変えるほどの大きな力は持ち得ないかもしれませんが、これまでの歴史にないほど食文化が重視されている現代だからこそ欠かせない。砂糖はいつまでも「さしすせそ」の頂点であり続けることでしょう。

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