メイン

まんが アーカイブ

2006年02月10日

志村志保子『女の子の食卓 1』(りぼんマスコットコミックス)

女の子の食卓 1 (1)
女の子の食卓 1 (1)
posted with amazlet on 06.10.21
志村 志保子
集英社

『ミシンとナイフ』や『ブザーシグナルゴーホーム』に比べると短い話のオムニバス。「運動会の五目いなり」や「えっちゃんのママのバジリコ・スパ」が好きというといい人ぽいが、もちろん「お土産のディジョン・マスタード」がこの巻の白眉というのが本心。

相変わらず表情のない表情というか、人間よりも人形の表情に近い絵が印象的。食べ物という生々しいものと無表情な少女たちが対比になっていておもしろい。正面を見据える扉絵からも感じることだけど、今回は少女のおままごとという雰囲気をわざと出しているのかもしれない。おままごとは、食べ物を摂取する必要のない人形がものを食べ生活を営むので、実際の人間ではない距離感を感じて遊びになるんだと思う。それは『女の子の食卓』にも当てはまり、普通の漫画よりもその距離感がある。

この人の絵ほど、汗とか顔色が変わったりとか似合わないのはそうそうない。また、鼻をとがった線じゃなくて、二つの穴として描くのも少女漫画としては珍しいんじゃないかな。パーツはリアルなのに、表情が乏しいから人形ぽく見えるのかもしれない。そして、今回のオムニバスは食べ物を囲む人々のにぎやかさがメインなので、これまでの作品に流れていた夜のひっそりとした空気みたいなところから遠い。そのよしあしはともかく、志村志保子は変わったという読後感でありました。

2006年04月08日

ささだあすか『三日月パン(3)』

三日月パン 3 (3)
三日月パン 3 (3)
posted with amazlet on 06.10.14
ささだ あすか
白泉社

シリーズ最終巻。だまされまくってパン屋に流れ着いたみずほが、パン屋の若き主たっちゃん(ハードパン系)と年の離れた妹なつきに拾われて、パン屋さんへの道を歩み始める、という「一つ屋根の下」系まったりラブコメ。

前にも書いたけどこのシリーズ、別のところで出た『別恋生活』もそうだが、画面に占めるトーンの割合が増えて、それまでの特徴とも言える空間の広さや落ち着きが消えてしまった。この巻では温泉旅行に行ったり結婚式に行ったりで、他の巻に比べると必然性のある背景が多いが、それでもこんなにがんばって空間埋めなくていいのにと思ってしまう。

「一つ屋根の下」系は出会いのチャンスを作る必要がないから、シチュエーションは全体に安定している。それまでは「家族のようなもの」だったのがラブに変化するわけだが、もう一人ライバルのパン屋さん(菓子パン系美男子)を出すことで揺れる心が出ている。そのへんのややぎこちない展開が昔のわたしならきゅんとしていただろう。登場人物の誰かがかっこいいとか共感するとかではなく、紆余曲折を経て幸せになるシチュエーションにきゅんとなるのだ。

それにしても、自分がこのまんがを必要でないことが分かってしまった。変に整った線でなく非常に個性的で人間を信頼する気持ちのまっすぐな線を見せてくれる作家(ちょっと説明口調も目立つけど)だと思うけど、もうどっぷりとこのまったりとした心地よさに浸ることはない。最近は特にテンションを無理してあげているように見えてついていけない。それでもささだあすかの作品から数年前のわたしが受けた影響はほんとに感謝している。自分の凝り固まった価値観や殺伐とした傾向をゆらっと崩してくれた。作品はこれからもきっと買い支えるけど、今のわたしが欲しい物語、欲しいまんがではないんだな、とぼんやり思った。

2006年04月29日

杉浦日向子『百日紅(下)』(ちくま文庫)

百日紅 (下)
百日紅 (下)
posted with amazlet on 06.10.14
杉浦 日向子
筑摩書房
売り上げランキング: 1,860


昼からの春雨で部屋が寒くなってきて、昼寝している猫の横にごろりと肘をつき、ビール片手に読了。今更だがこれはすごい。手に取るのも厭になるくらい。

国文出のくせに江戸というと『雨月物語』くらいしか思い浮かばない脳には、作者にはあまり興味がなかった。しかし短編の妙、絵の艶っぽさ、あらゆるところに顔を出す人の業がまざまざと描かれていて、いざ読んでみるとどれが良かったなんて比べられない質。「女罰」の脱いだ尼さんの流し目を見たらぶるっとくるし、火事を見るために走る女の上気した顔といったら。

これまでは物語に日本の匂いが強く出ていると拒絶反応があって、身近すぎて萎えてしまっていた。幻想的なものは自分の手が、想像力が届かないくらい遠くにあってほしい。そのくらい遠くて初めて浸ることができると信じてきた。だがこれは力がちがう。きちんとした研究の裏付けがあってこんな物語が生み出せる作者には嫉妬なんてちっぽけな感情ではとうてい追いつけない。作者のあまりにも早い死は神や仏が作品を読みたがったせいにちがいない。

なぜか江戸の漫画のBGMにはキューバ音楽が合う。にぎやかなようでちょっとさみしいところが混じってるところが似てる。逆にいっしょに買ったEnredo(エンヘード)という、つまりはブラジルのサンバは全然だめだ。祭り脳になってしまうので、掃除のときにかけると血が高揚して仕事が早く進みそう。

2007年01月02日

志村志保子『女の子の食卓 2』(集英社リボンマスコットコミックス)

女の子の食卓 2 (2)
女の子の食卓 2 (2)
posted with amazlet on 07.01.02
志村 志保子
集英社
売り上げランキング: 47208

1巻から続く「女の子の食卓」シリーズの他に、読み切りの「犬」を収録。本編とは関係ないけれど、入手にすごく時間がかかった。発売から1ヵ月後には都内の大きな書店から姿を消していて、半年後にようやくamazonで発見。人気がないわけじゃないと思うんだけどなー。

男性よりも女性の方が、食べ物については小さいころから興味を持っている。男なんて家で出てくる食べ物を何の疑いもなく口にするのがほとんどなのに、女の子は手伝いなどから食べ物というのが自分にとって必要不可欠であることをきちんと理解している。だからタイトルも『男の子の食卓』というと、本書に収録されている「料理教室のじゃがいものニョッキ」の藤間宅のようにコロッケどーん、たくあんどーん、餃子どーん、と出てきて、

お兄ちゃん達がいるから 見栄えより量命なんだよねえ

ということになる。そんな現実から抜け出したくて、藤間さんちのマチちゃんは料理教室に通おうとするお話。

今回気づいたのは、志村志保子の人物像がすべてお人形ぽい理由としてままごとを意識しているのかもしれないということ。一過性の遊びであるままごとは、泥団子やプラスチックの道具を使い、たいていテーマは料理であることが多い。このまんがでも料理という日常を扱いながらどこか非日常的な距離感を感じるのは、ままごとの世界観が採用されているせいだ。

でも、どの作品に出てくる料理もおいしそうなんだけど、情念がたっぷり染み込んだ味で、食べることによって何かを背負ってしまいそうなんだな。絵柄も描いてることもまったくちがうけれども、内田春菊と同じ情念を感じます。しかし、レストランでお金を払って食べる料理にはない、作る者と食べる者のたくさんのやりとりがあることを教えてくれるので、むしろ男子諸君こそ読むべきまんがだと思います。

読み切りの「犬」の方は、ペット飼いには肩身の狭い話。猫毛だらけで電車に乗ってすいませんすいません。他の短編より長いせいか、人物がちょっと執念深いせいで犬を媒介として奇妙な関係ができる話。わたしも猫がどこかに行って戻ってこない可能性を常に抱えながらいっしょに暮らしているので、少し身につまされた。まだ死があまり身近に感じられない子供のころに2回の死に立ち会い、生き物があんがいしぶとく、あんがいあっさりいなくなることも分かっている。それを立ち直れないほど最悪の事態と受け止めるのも、食いものにするのも人なのだなあ、と無常観に浸れる作品でした。

★★★★

2007年02月04日

よしながふみ『大奥1、2』(白泉社)

大奥 1 (1)
大奥 1 (1)
posted with amazlet on 07.02.04
よしなが ふみ
白泉社
売り上げランキング: 690
大奥 2 (2)
大奥 2 (2)
posted with amazlet on 07.02.04
よしなが ふみ
白泉社
売り上げランキング: 487

世の中は『大奥』が話題になっているが買うお金もないしまた話題が過ぎ去って100円落ちしたら読むか、と思っていたら望外にも読む機会がありさくさくと読了。

問題は物語の前提にある。若い男だけがかかる死病によって男性の人口が1/4になってしまった江戸初期〜中期が舞台。「若い男だけがかかる」「1/4でとどまる」という2点がひっかかる。21世紀の未来人としてはそんな病気ないよーという抵抗がまったくないわけではない。

それでも読み進めるうちに気にならなくなってくる。貧乏武家から男だらけの大奥になりあがる1巻(流れ紋の裃は実にかっこよかった)、京都有数の僧侶が見目を気に入られて大奥に誘われる2巻、どちらもぐっとくる。歴史改変ものとしては史実に囚われすぎず、さりとて大きな歴史のうねりはきちんとおさえている。鎖国や名前の付け方など実際の歴史を意識しつつ独自の展開があり、ガジェットの使い方はうますぎ、できすぎと思ってしまうほど。日本の歴史は変えられない方が好きなんだけど、これは許す許さないのレベルではない、一つの平行世界として「あったにちがいない」と確信さえ抱いてしまう世界が構築されています。安心して誰にでも勧められる傑作。

2007年06月17日

吾妻ひでお『失踪日記』(イースト・プレス)

失踪日記
失踪日記
posted with amazlet on 07.06.17
吾妻 ひでお
イースト・プレス (2005/03)

路上生活者になるかもしれないという不安をずっと抱いてきた。仕事は不安定だし手に入った金を貯金するほど生活に余裕もない。近くにせっせと缶拾いをして糊口をしのいでいる人たちが多く住んでいることもあり、彼らの姿を見るたびに同情よりも将来の自分を見るような不安感にあおられた。

本書は漫画家として名をなした後にタイトル通り失踪したときの物語。少女まんが好きとしては、吾妻ひでおのような絵柄はあまり好みではなく、それほど興味もなかったけれど、鬱病とアルコール中毒という決して他人事ではない状況に興味をもって読んでみた。すると案外ホームレスも悪くないという妄想にとらわれるが、これは手に職があり復帰できる人にしか許されないというせせこましい現実にすぐ舞い戻ってしまう。我ながら器が小さい。

漫画家をやめておいて、なぜか建築現場で働き出すところがおもしろい。本末転倒ではないのか。もっと前、仕事も人生もうまくいってないという時に読んだら少しは楽になれたかもしれない。

2007年08月19日

こうの史代『夕凪の街 桜の国』(双葉社)

夕凪の街桜の国
夕凪の街桜の国
posted with amazlet on 07.08.19
こうの 史代
双葉社 (2004/10)
売り上げランキング: 10

いわずとしれた原爆まんがの大傑作。今はちょうど映画化されている。

まず言い訳すると、わたしはたぶん人よりもあの戦争について詳しくない。特攻隊の予備連に行っていたという父の自慢話をうんざりしながら聞いたこともあったが、それよりも小学校の図書館に置いてあった戦争のまんがの影響が強い。もうタイトルは忘れてしまったし二度と読みたくないので思い出したくもないが数巻シリーズになっていて、とにかく悲惨な戦争の現実をこれでもかと読んでしまったのだ。沖縄の上陸戦がほとんどだが、負け戦が近づいて住民もろとも手榴弾で自爆したり、文字通り竹槍で特攻する兵士たちを生々しく描いており、まんがとはいえあまりの悲惨さに直前に食べた給食を吐きそうになったことさえある。もちろん戦争の悲惨な記憶を忘れてはいけないが、ああも直接的に描いて見せつけることもないと思うのだ。そもそも悪いのは気持ち悪いと思いつつも勝手に全巻読破したわたしなのだが。

そういうわけで、本書の話。本書の画期的なところで最大のポイントはグロテスクな描写を極力抑えていることだと思う。どうしてもヒロシマの話は被爆の生々しい傷跡ばかりを先に見てしまうせいで、「もうわかったからやめて」と思考停止してしまうのだ。そこを本書がほどいてくれて見えたものは、「戦争は終わっても人間関係を壊す原因となる」という日本人なら誰でも知っている単純な事実。原爆症という直接的なものから、広島に住んでいたというだけで受ける根拠のない差別、21世紀になってもなお心と身体の傷が治らない人はたくさんいる。毎日学校に行ったり仕事に出かけて、家族と暮らし友達と遊ぶ。そんな当たり前のことができなくなる不幸を戦争は確実にもたらす。その当たり前にやってくる不幸というのを素直に描いた傑作です。全人類必読書。

2008年05月04日

『3月のライオン』『聖☆おにいさん』『きのう何食べた?』

『3月のライオン』

羽海野チカ最新作は将棋指しで影のある高校生が主人公。作者のことさらに不幸を見つめ続ける姿勢がちょっと苦手だが、本作はまだ辛い過去がほのめかされるだけなので、主人公と拾ってくれたお姉さんたちの生活がさわやかでまぶしい。将棋やチェスはまたやりはじめたらきっと楽しいんだろうけど、なんだか先の時間ばかり気になってまだ手をつけられずにいる。そうして結局何も手つかずのままよりは、どんなに主人公達は幸せだろうとも思う。でもわたしはわたしで別に不幸ではないので、そんなに不幸ばかり見つめるなよ、と言いたい。もうちょっと楽しいこと多めでいいんじゃないのかな。

『聖☆おにいさん』

某書店員さんにおすすめされたもの。聖ってほんとうに東と西の聖だった。しかも東側はケチで笑った。「モテ期」が「モテ紀」だったりするあたりすごく細かいのだけど、聖ゆえにおおらかな愛と笑いがあってすごく好き。聖だけに下ネタに頼らないのも好感。今年の12月に続刊が出るそうなので、早くもカレンダーに登録しました。

『きのう何食べた?』

前々からいろんな人に勧められていた料理まんがでおもしろかったけどいろいろ複雑な気持ちになりました。料理が得意なハンサム弁護士による段取り一人言が普段のわたしと被っているとこがちょっとイヤ。それにしてもこれだけの料理を作るには18時には上がらないと無理だよね。で、買い物30分、料理1時間くらい時間いるもの。それにしても安いなこの街。わたしんとこは安くても倍くらいするのでそこがちょっと悔しい、なんてまんが相手にぶつぶつ本気で愚痴っているのに気づくのもイヤ。

About まんが

ブログ「natsu in the sky with diamonds」のカテゴリ「まんが」に投稿されたすべてのエントリーのアーカイブのページです。過去のものから新しいものへ順番に並んでいます。

前のカテゴリはSFです。

次のカテゴリはエッセイです。