梨木香歩『沼地のある森を抜けて』(新潮社)
この作品はNHK-FMのラジオドラマ「フリオのために」がきっかけですぐに読もうという気になった。なんせぬか床から卵が産まれて、そこから人が出てくるのだという。ラジオでは冒頭の1章だけしか放送していなかったが、本ではそこからさらに9章も続いている。そして冒頭のぬか床ファンタジーなんてなまっちろい印象は読み進めるに従ってずっしり水分を含み、SFなところも出てくる壮大な話になってしまう。この手際、異世界で変な生物に出会いボスキャラを倒してエンディングなんて単調な物語をファンタジーとは決定的にちがうのだ。
物語は先祖代々受け継がれるぬか床を、叔母がなくなったあと「私」が引き受けるところから始まる。幼少の頃に同級生だった情けないフリオがぬか床から産まれた少年が、やはり幼い頃の友人だった光彦だと分かり、なんでか「私」の家に転がり込むところから始まる。その後はダメ男にふりまわされる「私」が、やがてぬか床の謎を解き明かす方向へ展開する。
3章と6章は「かつて風に靡く白銀の草原があったシマの話」というSFパート。現実からかけ離れていて、ジーン・ウルフ「新しい太陽の書」にちょっと近い雰囲気。ここはぬか床がつなぐ別の世界として読んだけれども、細胞の寓意ともとれるし、いろんな解釈を許す描写になっている。はっきりと位置づけることができなくて、ちょっととまどった。
ラストは壮大なんだけど、こういう壮大なものに直面すると思わず笑ってしまう。自分の理解の範疇を超えてありえなさが前提となってしまうことが理由だとすれば、それはわたしの人生経験値が足りないせいかもしれない。ただ、それだけ重み、迫力があるわけで、正対して自分の中にとどめるに値する力だ。

























