森見登美彦『太陽の塔』(新潮社)
ずっと噂を聞いていた「京大マジック・リアリズム」。ようやく手にとってなるほどなっとく。といっても、わたしは修学旅行も含めて2回行っただけで京都の土地勘はほとんどない。だから具体的な場所の持つ住民ならではのイメージは薄い(四条河原町が繁華街ってことくらいは分かる)。それでも十分に笑えたし、(おおげさに言うと)魂のよりどころとか性根のあり方を考えさせられた。
京都大学に入学したのはいいものの、協調性を欠きうち解けない主人公をはじめ、歴史の表舞台にはなかなか登場しづらい男4人の大学生活暗黒物語。主人公はようようできた彼女にクリスマスプレゼントを突き返されてふられ、それ以降彼女の研究と称して尾行を繰り返し、「研究成果」をノートにびっちり書き込んでいる。ヘンタイだ。
主人公の元彼女水尾さんは主人公の追憶の中でしか姿を現さないところがすばらしい。そうだ、美しい愛は常に過去にしかありえないっ。今そこにある愛はどろどろでぐだぐだなんだから、もっと美化して妄想に浸るのだ、と応援したい。情けないと言われようが、それもひとつの愛。他人には受け入れがたいけれども、愛にはいろんな形があるんだから、それはそれでしょうがない。
惜しいなと思うのは「邪眼」の植村嬢が有機的に絡んでこないこと。物語上、同じ学年の女性と設定することはかなり広い意味を含んでしまうと思うのだけど、その眼で見つめられると萎縮してしまうという単純な役割にとどまっている。ありきたりなパターンなら、4人組の誰かを好きというシチュエーションとかその逆と考えられるけど、毎回単に疑惑のつっこみを入れるだけで消えていってしまう。
物語が後半にさしかかると、主人公の語りが現実を離れて人の夢に入ったり、非現実的な描写に直面する。それは彼の一部であり世界だから驚くこともなく引きこもることもなく、その世界を処していくのだ、とわたしは受け止めました。が、ここはいろいろな読み方ができて、大変好印象。個人的にはマジック・リアリズムで起こる非現実的な事象には象徴性が極力排除されている方が好みなのでやや描きすぎかなとも思いますが、それはわたしの単なる嗜好。そもそもなんだかよく分からない太陽の塔がある時点でこの物語の非現実性は確立されたようなもので、その元でうごめく人と夢の純粋さとあほらしさを、主観ながらも落ち着いた筆致で描き出しており、非常に好印象。10年後、20年後の作品はきっと京都の枠から飛び出して驚かせてくれるんじゃないか。今から楽しみなので長生きしなきゃ。


