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ルイス・フェルナンド・ヴェリッシモ『ボルヘスと不死のオランウータン』(扶桑社ミステリー)

ボルヘスと不死のオランウータン (扶桑社ミステリー ウ 31-1) (扶桑社ミステリー ウ 31-1)
ルイス・フェルナンド・ヴェリッシモ
扶桑社
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ボルヘスがミステリの主人公になると聞いたとき、「博識のボルヘスが書斎からずばりずばりと難問を解決していく」か、あの『ドン・イシドロ・パロディ 六つの難事件』ばりの煙を煙で巻くような「よく分からないけどそれで解決ならよかったですね」になるかのどちらかしかないと思った。前者ならばボルヘスのおもしろさに目覚めたミステリ者たちがこぞって国書の「バベルの図書館」シリーズがざくざく買われちゃうかもしれないな、まずいな、なんてずいぶん遠いところまでそろばんをはじいてみましたが、それは杞憂のようです。どう見ても本書は後者の「よく分からないけどそれで解決ならよかったですね」パターンだからだ。それまで問題の解決口がほとんど見られず盛り上がりらしい盛り上がりはほとんどないといっていいいだろう。

しかし、ボルヘスとクトゥルフという驚異のタッグマッチを成し遂げたところに本書最大の功績を与えるべきだろう。「全日のリングに猪木があがる」「Jリーグでジダンがプレイする」そのくらいこの取り組みにはわくわくできる響きがある。ちなみに本物のボルヘスもクトゥルフ神話には興味を持っていたらしく、代表作「アレフ」はラブクラフトが喜びそうな話。ある男の地下室に「地球上のすべての場所が、混乱することも融け合うこともなく、それぞれの形状をはっきり保ちながら凝集している場所」があるのでほいほい入っていくというもの。

ポーの研究会に集まるボルヘス他の研究者たちがその場で起こった殺人事件に出くわすというのが本書の舞台で、若いときにボルヘスの翻訳を手がけた(余計な改訳をしてこっぴどく嫌われた)初老の文学者による一人称視点の小説という形式をとっている。しかも彼は殺人事件の第一発見者で、当時の状況を「そういえばああだった」「ちがった、実はこうだった」とどんどん証言を変えて警官をむかつかせ、一方ボルヘスは新しい証言にどんどん新解釈を連ねて悦に入っている。この対比がよかったです。死体の置かれた状況が鏡に映って「X」の形だった、いや「W」にも見える、つまり「W」とはポー的にはこういう解釈だったのだよ! と無邪気に戯れるおっさんたちが微笑ましい。

不死のオランウータンもいたねそういえば。ともあれ本書を読む前にちくま文庫の『ボルヘスとわたし』か岩波文庫の『伝奇集』のどちらかでボルヘスに触れておくことをおすすめします。

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