榊原悟『江戸絵画万華鏡 戯画の系譜』(青幻舎)
青幻舎
売り上げランキング: 80304
今ではすっかり漫画が隆盛していますが、実は平安の昔から「をこ絵」という戯画があって、江戸の町人文化で華開いたということがよく分かり、それよりも何よりも江戸の発想力は本当に奇想天外と言うしかない、優れた遊び心満載で楽しくなるムック。図書館で借りましたが、これは手元に置いておきたい。
江戸の文化はさっぱり知らないのですが、江戸のおもしろさは文学でも絵画でも21世紀の今にも充分通用するものばかり。昨年は伊藤若冲が江戸にこれほど細密な描写が、と注目を浴びましたが、他にも本書に掲載されている河鍋暁斎、長沢芦雪のおもしろさは見逃せません。河鍋暁斎の「怪猫図」は恐ろしくも愛らしく、”描き表装”という技法を使った「幽霊図」を初めて見た人は3Dの赤青メガネをかけて「キャプテンEO」を見たときのような衝撃を受けたのではないでしょうか。幽霊が描かれるべき場所を超えて掛け軸の棒に近いところまではみ出しているのだから。
長沢芦雪のヘタウマだけど迫力だけは何ものにも負けない「虎図襖」もすばらしい。こうして見ると江戸で題材になるのは昆虫や魚のリアルな描写(この辺は後に海を渡ってジャポニズムになったのだろう)というそれまでにはない身近なものの他に、犬よりも猫の方が圧倒的に多いことに気づく。「お犬さま」があったくらいだから、江戸の人は犬にはあまり良い印象が無かったのだろうか。にゃんこ最高だから素直にうれしい。
ともあれ、本書で取り上げられている絵画の目の付け所はおもしろい。志ん生が「骨がなかったらいっしょになりたいよぉ」「俺ぁ骨があっていけねえな。あぁ、なまこがうらやましい」なんて言うのと同じで、発想の飛躍が尋常でない。飛行機がない時代に、海側の上空から厳島神社の全景を描く(長沢芦雪)視点の新しさがあるかと思えば、かの色男在原業平の死を釈迦の涅槃に見立てた「見立業平涅槃図」(英一蝶)や七福神の混浴図(河鍋暁斎)なんてエロいものもある。この発想の自由さは一見自由にあふれた現代でも見逃しがちな、脳みその中の自由をふんだんに使った成果。笑えるだけでなく、この自由さを常に見習いたい。脳みそをリフレッシュするに最高の一冊です。
![江戸の絵画万華鏡 戯画の系譜 [大江戸カルチャーブックス] (大江戸カルチャーブックス) (大江戸カルチャーブックス)](http://ecx.images-amazon.com/images/I/51uCKuwtK6L._SL160_.jpg)




