普段手にとらないちくま学芸文庫のなかでも、美術史というわたしにはあまり縁のない本を手に取る機会になったのは故狐の書評から。図像学という描かれた対象物から意味を読み解くおもしろさについて真摯に語られていたのを思い出す。
実際に読んでみると、よく知っていると思いこんでいたダ・ヴィンチの「モナ・リザ」やミケランジェロの「システィーナ礼拝堂壁画」などについて、細部まで丁寧に、しかも子供から大人にまで分かりやすく説明されていて大変ためになった。と同時に、知っていると思っているものでも細部までしっかり見ていくと自分の視野からこぼれ落ちているものがいかに多いかを思い知る。特に、ヨーロッパ中世では常識でも、現代に至るまでに宗教的事情や時勢の変化によって現在では知られていないことが結構あるのだということが、当たり前なんだけど自分の視点に抜け落ちているな、と思ったことでした。通り一遍の日本史と世界史を学んだだけでは見えてこないものがある。たかだか100年くらい前の日本語の文章は漢文からの影響が強く、意味の分からない単語がたくさんあるだろう。現代でさえ、たかだか20年前にはパソコンも携帯もほとんどなく、生活のスタイルは今とかなり違う。まして外つ国の500年前のことなんて何も知らないんではないか。
もちろん、まずは対象物と今のまっさらな自分との対峙から始まるべきではある。しかし、まっさらな自分のまま対峙していても何も進歩がなく、「すてきね」の感嘆詞だけで関係が終わってしまうのはちょっとさみしい。21世紀の人間ではなく、16世紀の人間として「モナリザ」を見る目を養うこともおもしろいはず。入門編としてちくま学芸文庫というちょっと敷居の高いレーベルから出ていることでマイナーになっているにはもったいなさすぎる。中高生の教科書にさえなるような優れた一冊。万人必読であります。
