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イサベル・アジェンデ『精霊たちの家』(国書刊行会)

精霊たちの家
精霊たちの家
posted with amazlet on 08.03.23
イサベル アジェンデ Isabel Allende 木村 栄一
国書刊行会 (1994/05)
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ラテンアメリカ文学のブームはコロンビアのガルシア=マルケスで頂点に達しますが、それ以外にもメキシコのフェンテス、パス、アルゼンチンのボルヘス、コルタサル、プイグ、ペルーのリョサなどが一斉に華開いた時期です。おおよそ1910〜30年代に生まれた人が多い。それに影響を受けた第一世代が1942年生まれのイサベル・アジェンデに当たるでしょう。ペルー生まれチリ育ち。本作は彼女の第一長編にして各国でベストセラーとなり映画化もされた傑作。

という前書きはともかく、とにかく読み手を飽きさせないという点では評判通り。エステーバン・トゥルエバという精力的な事業家(のちに政治家)の一生を借りて、恋人、妻、娘、孫娘たちの女系について描かれた波乱に満ちた物語。最近のアジェンデは子供向けの冒険小説やハーレクイン系にも進出しているようですが、それを予感させる人間関係の甘さと苦さ、それに作者が育ったチリで否応なく直面せねばならなかった政治についても作中に反映されています。

トゥルエバが物語の枠を作ってはいますが、中心になるのは女たち。中でもミズ・マジックリアリズムの「透視者クラーラ」は美人な上に超能力者。自分の座っている椅子を手も使わずに持ち上げて家の中をすいすい移動したり、蓋を閉めたままのグランドピアノでショパンを弾いたりします。何不自由なく育った少女期からそういう力を持っていましたが、大人になり苦労を重ねてからも力は衰えず、編み物しながらすいすい動いている様は「あ、このうちのお母さんはこういう人なんだ」と納得してしまいそうな自然さで描かれていて受け入れやすい。イギリスの小説だと家に霊能力者が出入りしはじめると、インチキ霊媒師にぼったくられてお家没落となる前触れだったりしますが、本書では霊媒師たちも近所のおばちゃんみたいに普通に出入りしているのがおもしろい。ちょっとしたユートピアのようです。

しかし、世間はユートピアをそのままにしたりはせず、家にもやがて没落する時がやってきます。時を同じくしてラテンアメリカでは独裁者たちが力をふるい、街には戒厳令が敷かれ、不当に逮捕される人々が出てくる。ほんのちょっと反政府的な行いをしたり、目立つ人間が容赦なくしょっぴかれていく。このシーンには本当に怒りを感じ、歯止めがきかない政治権力の恐ろしさを痛感しました。今も地球上では勝手に人の土地に乗り込んでいって爆撃したり、自分の国でもない土地を勝手に収奪して無辜の民を殺している国家が存在します。本書はラテンアメリカという遠い国の話ではなく、ファンタジー(マジック・リアリズム)としてのおもしろさを持ちつつ、国家が持つ愚かしさについては21世紀に入っても何も変わっていないという現実に気づくためにも有効な一冊です。

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