C・ブロンテ『ジェイン・エア』(光文社新訳文庫)
光文社 (2006/11/09)
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喪中により謹んで新年のご挨拶と代えさせていただきます。
さて、去年は新しい生活が始まって小説を読む時間が少なくなったので、これからはその分を取り返そうと思っている。折しもナボコフの『ヨーロッパ文学講義』を入手し、改めて小説(文学)をちまちまと細かいところまで浸って読むことのおもしろさを再発見し、それと共に古典文学に秘められている構築の美をわたしも掘り出してみたいという気持ちが強くなっているのです。
そこで年末年始と読みふけったのがC・ブロンテ『ジェイン・エア』。光文社新訳文庫から小尾芙佐さんの訳で出直したものです。小尾さんと言えばわたしにとっては最初の海外小説である『アルジャーノンに花束を』の訳者として頂点に君臨する方で、読みにくさなんてものは全くないというのは、読む前から読了後まで変わりませんでした。
こんな古典的名作のあらすじを述べるのはおこがましいのですが、ジェイン・エアという天涯孤独の少女がいじわるな伯母に引き取られるものの、寄宿舎に放り込まれ、やがてそこで磨いた知識で家庭教師として独立。お屋敷の専任となりその主人エドワード・ロチェスターと紆余曲折というかツンデレを経て恋仲に落ちるが、主人にはある秘密がありそれが二人を離ればなれにしてしまう。ジェインは無一文で屋敷を出て、とある村にたどり着きさらに運命的な出会いを果たすが、心はいつもロチェスター卿を忘れてはいなかった……。
いわゆるビルドゥングスロマンであり、女性の自立を描いた小説としては当時きわめて珍しかったそうですが、それは書かれて200年(!)を経た現在でもなお健在です。なんだかんだで幼少期や学生時代の出来事や身につけた技術がきちんと後半になって伏線としてきれいに使われるのは、上手。見ようによっては世界の狭さであり、作者の都合の良さにもつながるのですが、やはり丁寧に物語が編み込まれている様は古典たるゆえんを十分に感じられました。そこここで読者であるわたし自身の葛藤と重ねられるような大きな決断を幾度となく強いられるジェインに共感しつつも、文学史上ここまで偉大なツンデレがあったであろうかと思わしめる頑固さに辟易もします。そこが強い個性として矛盾なく描かれているのが本書を読み進める大きな原動力なのです。ツンデレの葛藤を一人称で細かく描く本書はぜひ男子にこそ読んでいただきたい。
またブロンテ一家は牧師の家に生まれたこともあり、やや私小説的な本書にも聖書の文句がたびたび引用されます。いくつかはwebで調べたりもしたのですが、やはり息をするように聖書の言葉が出てくる人ではないわたしには、字面的には理解できても、聖書で書かれる背景までしっかり読み込めているとは思えずちょっと悔しい。
後半に入るとやや冗長とも言える場面が出てきます。映画化されたときもだいぶ省略されていたようですが、しかしその冗長さゆえにラストの感動が生きてくるのだとも思います。ベタな話ですがそれゆえにめそめそ泣きながらページを繰っておりました。「ブロンテ三姉妹の一番上で、もっとも長生きした人」なんて文学的知識は放り投げて、単純に物語と向き合って素直に感動するのが吉。本作で古典のおもしろさにちょっと目覚めたような気がするので、次はナボコフ先生ご推奨のトルストイに挑戦してみます。




