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2007年12月 アーカイブ

2007年12月09日

ウラジーミル・ナボコフ『ディフェンス』(河出書房新社)

ディフェンス
ディフェンス
posted with amazlet on 07.12.09
ウラジーミル ナボコフ Vladimir Nabokov 若島 正
河出書房新社 (1999/12)
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ナボコフには『ナボコフの一ダース』(サンリオ文庫)でひどい苦手意識を植え付けられていた。サンリオと言われればなんとなくサンリオSF文庫に通じるものを感じ、きっと異質な現象を扱った小説にちがいない、と期待して読むと、なんだか何にも起こらない。電車に乗って迷子になったとか、そんなめそめそ短編ばかり。なんだこれ。

でもみんなほめてるからきっといい小説家にちがいない。現に学生時代、まだSFをろくに知らない頃に読んだ『ロシア文学講義』はとてもおもしろくて、文学部にいたくせに小説を読み解くおもしろさはこの本で気づいたくらい、大きな影響を受けた。ある程度長くて、ナボコフのおもしろさを感じられる本をまずは図書館で、と選んだのが本書。ディフェンスとはチェスの「対抗策」という意味で、表紙のカバーもチェスの盤をイメージしている。が、今日見てきた上野の「フィラデルフィア美術館展」ではマルセル・デュシャンの「チェス・プレイヤーの肖像」という絵がかけられていて、いわゆる抽象的な切り取られた多面的な描写が本書にぴったり。今からでも表紙をさしかえて文庫化しませんか河出書房さま。

本書を読み終えてナボコフのおもしろさがかなり分かったような気がする。少なくともわたし自身は他の本を読んでも楽しめそうな気がしている。別に表立って奇妙奇天烈なことが起こるわけではないのだ。サンリオSF文庫のイメージで読んではいけないのだ。毎度のことながら山形さんの書評をひきあいにだしてしまうけど、誰もが持っている記憶にうったえかける小説らしい。ロシアの小説家の出自なんてわたし自身からはまったく共通するところがないけれども、子供の頃にいじめられた記憶や細かい発音へのこだわり、家庭のにおいのような、本当にささやかで今となっては思い出すこともないようなことを連ねていって、いつの間にか登場人物の記憶に自分が入り込んでしまい、「共感」とは異なる、もっと自分に近い物語に"なって"しまうところにおもしろさがあるんだと思う。それはシュワルツェネガーの映画を見て自分もマッチョだと錯覚するような感じに近い。でも、もっと起き抜けの布団で妄想するようなほんわかと強い質のものだ。その幸福感、一体感は誰しも味わったことがあると思う。それを読書で味わうことができるというのはまさしく至福なのです。

この本を読むときに必要なのはただ一つ、徹底的な外部の遮断。喫茶店もダメ、図書館もダメ。自分の部屋にこもってひたすら文字と戯れることが要求される。喫茶店や図書館で寝起きの幸福感が得られないように、心から安らかに眠れる場所で読む必要がある。来るお正月の退屈な時間にナボコフと戯れるのはとても幸せそうなので、おもわず今日は2冊もナボコフを買ってしまいました。正月から『ロリータ』というのもなかなか乙、なはず。

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