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2007年07月 アーカイブ

2007年07月01日

円城塔『Self-Reference ENGINE』(早川書房)

Self-Reference ENGINE
Self-Reference ENGINE円城 塔

早川書房 2007-05
売り上げランキング : 34997


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バカなので分かりませんでした! 物語が有機的につながっている感覚が薄くて、「巨大知性体」がどうなろうが知ったこっちゃねー。

読書会で勉強してきます。

2007年07月05日

おかいもの


Call off the Search
Call off the Search
posted with amazlet on 07.07.05
Katie Melua
Dramatico (2004/10/18)
売り上げランキング: 104077


Gontitiの「世界の快適音楽セレクション」で紹介されていたのを覚えていたので購入。声のねばりけにはややひっかかりを覚えるものの、全体に低めのテンションでベースがきいていて良いです。Diana Krallを好むセンスと同じところが反応しました。

Solo「New classic soul」

タイトル通りクラシック・ソウルの現代的解釈、といってももう12年前のアルバム。ジャム&ルイスプロデュースで聴きやすくフックがあって安心して聴けます。

ヒンテン
ヒンテン
posted with amazlet on 07.07.05
グル・グル
キングレコード (2000/03/03)
売り上げランキング: 163262


今回の目玉。けつに「GURU(われめ)GURU」と書いてあるひどいジャケット。しかしGuru Guruといえば「UFO」という摩訶不思議ノイズ系プログレとして有名なわけで、わたしも愛聴はせずとも売り払うことはない(すごく傷がついてしまったので)名作です。これも太鼓がずだどどどん、ベースがうんごろうんごろ、ギターがにゃんにゃにゃにゃーみゃーとやかましい。いわゆるジャズロック系か。ちょっと神秘的なところもあって良いです。

Munich Concert
Munich Concert
posted with amazlet on 07.07.05
Miles Davis
Deluxe (2006/01/30)
売り上げランキング: 67046

マイルスが3枚組! と驚いて入手したら後期のものでした。でも後期のマイルスはほとんど聴いたことがないので、ベスト的に購入。マイケルがサンプリングしたHuman Natureを聴いて感動! 今のHip Hopみたいに原曲が分からないようにするんでなく、そのまんまでした。だがこちらは12分もある。

2007年07月06日

野溝七生子『眉輪』(展望社)

眉輪
眉輪
posted with amazlet on 07.07.05
野溝 七生子
展望社 (2000/02)
売り上げランキング: 421725

久しぶりに心から物語に耽溺した。好きな傾向の本はどうしても頭で理解しつつ「感心する」という楽しみ方が多いのだが、これは頭からラストまでどっぷり古代日本に浸かりつつ、現代人の視点も生きていて、なおかつ情に溢れた物語。旧字が多用されていることで普段読んでいる小説とはちがう、それでいて古典の勉強の堅苦しさはない、優れた古代小説です。荻原規子のファンタジーが好きな人にも読んでいただきたい。絵面は昔の少女まんがで。

「眉輪」とは記紀の時代に短い生涯を閉じた眉輪王のこと。彼の利発な性格は父の死、母との別れを経た後に、真実を知ることで「眉輪王の変」と言われた天皇の殺害にまでおよび悲しい最期を迎える。人物の関係図や詳細は有里さんのページが詳しい。そもそも本書の存在を知ったのも有里さんのところで、それから何年たったことか。先日タイトルがおどろおどろしいが中身は少女まんがな『女獣心理』を読んではずみがついたか。

ソローキンの『ロマン』ほどとは言わないが、静と動の対比が実にみごとで、穏やかな時期の会話のなめらかさ・ほっこりした感触と、激した時の壮絶な勢い、そして戦いの空虚さと残酷さを描くときの筆致がどれも図抜けている。特にぐっときたのは、前半ではあまり人に対して呼びかけを使わないのですね、なぜかというと、平穏な日々では用のある相手はすぐそばにいるものだから、大きな声を出さずともふりかえって言いたい言葉を発すれば相手に届くのです。ところが、後半になって混沌が訪れると言葉をかけたい相手が近くにいない。そのため、まず相手を捜す、呼ぶところから言葉が始まるのです。そこで作者は相手への呼びかけに「繰り返し」を使うのです。

「若草香媛、若草香媛、御身は今どこに居るのか。」

王子は追つた、追つた。
「助けよ、助けよ。」
あとに聞く王妃は戦慄を禁じ得ない。どんなに絶望を語つた声の響きだつたか、彼女は続いて去つた。 「媛、それは無理、たいへん無理です。非常にむつかしいことですわ。」
「不幸な孤児の願ひを、決して拒け遊ばすことはなさらないと、そのやうに王子様がお妃様のことを私にお噂さ遊ばしました。」
「媛、私の心が新たに贈り物を考へつくまで御身は何も何も私から欲しがつてはいけません。可愛い人。」
「優しい優しいお妃様、何ていい方でせう。」

なぜ同じ言葉を繰り返すか、それは強調だ。1度では足りないから、2度、3度と繰り返すのだ。当時は今よりもずっとずっと語彙が少ない時代、そこにアクセントをつけるのは声の大きさではなく、繰り返しだった。例えば今、誰かに何かを言い聞かせるときに、「だーかーらー」などと接頭辞だけで自分のスタンスを表してはいないだろうか。本当に言葉を届かせたいのならば、同じ言葉を何度も尽くすことだ。今の手持ちの言葉を相手に届けるように力一杯送り届けることなのだ、とこの本を読んで物語のおもしろさと共に語り方の極意をも教わったように思います。野溝七生子の言葉のやわらかさと、それを届けるために尽くす力は本当にすごい。これが大正十四(1925)年に書かれた作品とはにわかには信じられません。大傑作です。

2007年07月07日

ジェフリー・スタインガーデン『やっぱり美味しいものが好き』(文春文庫)を読んでからというもの、おいしい塩を狙っておったのです。ジェフ曰く、世界で一番すばらしいのは大島のブルーレーベルであり、それはバーバリーではなく塩だというのです。塩のブルーレーベル。レッドレーベルとかブラックレーベルなんてのもあるのかしら。

そんな欲求をふつふつと抱えて、ふと某品川のクイーンズなんとかに赴いたところ、塩が何種類も並んでいる。死海の塩(これは買ってみたけど癖のない岩塩)を始め、シチリア島、モンゴル(これは安い)、フランスなどなど、塩だけでもたくさん種類があるわけです。で、見つけましたよ、大島の塩

top_shio.jpg

これの青ラベルがおそらくジェフの言っていたブルーレーベルなのでしょう。会員にならないと買えないと書かれていたのは、おそらく当時はまだ日本では塩が専売制で、公に売ることができなかったのでしょう。塩の専売制が解禁されたのは1997年だそうです。

ちなみにわたしが買ったのはもっと高い赤ラベルだっ。500gで1000円、つまり1gあたり2円なわけで、1円玉より高い塩なのだ。アルミ<塩。ナトリウムすげえ。

で、帰り道では塩で食べる料理をむほむほと想像していたわけですが、トマトソースや煮物などに使うとやはり他の味と混じり合ってしまいわたしのぼけぼけな舌ではおいしさが知覚できまいと判断し、シンプルに焼き料理。ししとうを串に刺してグリルで焦げ目がつくまで焼いたり、冷や奴にちみっとかけたり。

塩は取り出してみると普通の塩よりもしっとりと水分を含んでいる印象。でも袋の中でだまになったりしていないところがふしぎ。とりあえず平時は冷凍庫で保管することにしました。一晩置いても固まったりしていないので、しっとり感はただの水分ではないのでしょうか。

塩が甘いなんて言うときちがい扱いされそうですが、ふつうの塩で感じる最初の苦みが全くないのですな。焼きたてのししとうにつけたらししとうが出汁と砂糖で煮たかのように甘い。うまい。これはドラクエだったら「それをすてるなんてとんでもない!」と言われる勢い。どんな店に行くにも懐に忍ばせてささっとかけたくなる気持ちがわかりました。これで焼鳥したらうまかろうて。茄子とか玉ねぎとか。きゅうりを塩かけただけで食べてもいいかも。刺身もいいわね。もうすでに料理ではなく、塩を味わうために食材がある、本末転倒です。

2007年07月08日

引間徹『地下鉄の軍曹』(集英社)

地下鉄の軍曹
地下鉄の軍曹
posted with amazlet on 07.07.08
引間 徹
集英社 (1995/04)
売り上げランキング: 819603

タイトル通り、地下鉄の跡地に住む軍曹に主人公の会社員が戦友とまちがわれることで行動を共にすることになる話。リゾート開発会社に勤める主人公は、東南アジアから来たライバルの優等生サマサマや日本文学を学ぶ留学生の少女と共に、軍曹のドタバタにつきあわされる。軍曹は昭和天皇を御護りするために地下鉄に暮らしているのだ。第112回芥川賞候補作品。

作者の名前は『十九分二十五秒』で足が不自由ながら競歩選手として歩き続ける姿でくっきり印象に残っていた。ラストもスティーブン・キングの『死のロングウォーク』(大傑作!)のように読者に委ねるところも良かった。

なんといっても描写がしっかりしているところがいい。無駄なところがなく、主人公の独り語りもうっとうしさを感じさせない。フランスパンを銃剣に見立てて持ち歩く、「つぶれた銀杏」の臭いの老人になつかれた青年の困りぶりから次第に親近感を抱く過程が自然に描かれる。

とはいえ、わたしは天皇制については故意に関心を抱かないようにしているため、本書で語られる敗残兵の心意気は伝わってきたものの、思想にまでは共感できない。作中ではチェーン店の牛丼の味に感動して軍曹が危篤の陛下に牛丼を差し入れるシーンがあるが、このあたりの強烈な皮肉は他人事としてしか読み取れなかった。「皮肉だな〜」という他人事として消化してしまったし、全編のモチベーションにも心動かされることはなかった。このあたりに共感するにはまだまだわたしの勉強が足りないし、時間も足りない。

しかし、社会的に重視されていない思想を死ぬまで追求することは他人(特に現代の日本人)から見ると滑稽でしかないが、いざその思想に触れて共感を覚えたときには他人の蔑みなど気にならないだけの自分の基盤になるのだろう。それが幸せだとか不幸だとか他人が口を出す問題ではないにも関わらず、その人から悪臭がするとか休みの日に勧誘に来るとかでゴキブリのように蔑む権利は本当はないということを改めて心にとめることになった。

作者は最近新刊を発表していないようだけど、かったるいニートの内面なんて時流に合わせてぽろぽろ出されるよりは、本書のような志のある小説こそを読みたいものです。

金子ひろみ『酢てきなごちそう』(集英社)

酢てきなごちそう
酢てきなごちそう
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金子 ひろみ
集英社 (2005/04)
売り上げランキング: 310658

単に酢を使った料理を紹介するだけでなく、イタリアでの酢の使われ方やミツカン工場の見学、伊達公子との酢をめぐる対談など、さすが大きな出版社は金のかけ方がちがうな、と思い知らされる一冊。某いったんつぶれかけた料理系出版社ではカラー20ページ程度でイタリア取材は無理だろう。

イタリア編ではシェフに文句を言われながらもピザにまで酢をかけて食べる著者の姿勢にちょっとおそろしいものを感じた。お酢教。そういう本だから仕方ないのだが、ちょっと強引ではないか。また、イタリアでも寿司ブームが起きているそうだが、いかにも京樽なサラダ巻きはともかく、冷凍寿司なるものまであるとは驚愕・戦慄。美味しいものばかり食べていると思っていたが、案外イタリア人の舌というのは信用ならないんではないか。トマトに飽きると何でもいいのか。

とはいえ、イタリアの市場の写真が多めなのはうれしい。海外の市場の写真は大好き。見ただけで料理欲が刺激される。手間暇かかった料理の写真は味の想像がつかないのでうまそうともまずそうとも思わないが、色とりどりの原材料を見るとそこからどういう味が引き出せるのか挑戦したくなるのだ。

レシピ編では米酢はもとより白ワインビネガーやバルサミコ、りんご酢まで使ったレシピが掲載。ハンバーグなどひき肉を捏ねる料理に酢を入れるというのは試してみたい。特に豚ひき肉のような脂身の多い場合には有効そうだ。また、中華からラズベリーまで多様なドレッシングのレシピも参考になる。ドレッシングはどうしてもうまくできないもののひとつで、やはりきちんと計測することとミキサーを使ってしっかり混ぜることが大切だと認識。ちなみにサラダをおいしくするには大きなボウルに野菜をいれてしっかり絡ませることだと最近気づきました。

暑い季節を前に、お酢で夏バテしないようにこころがける殊勝な方にはよろしいのではないでしょうか。わたしとしては参考程度に聞いておきたい。今日はピクルスも作ったし酢の物は大好きだけど、食卓すべてがお酢の味なんてわたしはやだなあ。

2007年07月16日

おかいもの

Focus
Focus
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Cynic
Roadrunner (1993/09/16)
売り上げランキング: 128457

凡百のがーがーうなってるデスメタルだろうとあなどっていましたが、プレイヤーにかけるとあにはからんや、きらめくギターの旋律にプログレなドラムとベースが足下を支えるなかなかのおもしろさ。デス声もVenom、Bathoryを若いうちに経験しているので全然気になりません。これはいい買い物だー。

Love in Vain
Love in Vain
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Robert Johnson
Hallmark (1998/04/01)

ブルーズの神様ロバート・ジョンソンをろくに聴いたことがなかったので。昔は退屈なだけだったけど、今では味も少しは感じられる。ギターもいいけど、声も渋くて張りがある。

Martin Hayes
Martin Hayes
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Martin Hayes
Green Linnet (1993/10/05)
売り上げランキング: 397902

アイルランドのフィドル奏者で、前世紀末にケルト音楽ばかり出していたGreen Linnetから出ていたので即買い。チーフタンズの音楽よりも落ち着きがあり、柔らかさがある。ダンス一辺倒じゃなく、じっくり黒ビールといっしょに聴きたい。

幻詩狩り
幻詩狩り
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川又 千秋
東京創元社 (2007/05)
売り上げランキング: 24375

わたしのは中公文庫版。シュルレアリズム好きとしては見逃せないので。

万葉秀歌〈下巻〉
万葉秀歌〈下巻〉
posted with amazlet on 07.07.16
斎藤 茂吉
岩波書店 (1968/12)
売り上げランキング: 13043

万葉の歌に興味が出てきたのもあるが、それ以上にそれぞれの歌をしっかり解釈する姿勢を学ぼうと思って。一首一首ことばの訳からしっかりしているので、下巻からでも読めそうと思って。

短歌をよむ
短歌をよむ
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俵 万智
岩波書店 (1993/10)
売り上げランキング: 99512

古代もいいけど現代もね、ということで購入。……や——が多いのがやや鼻につくが、この流れた間を感じ取るべきなのでしょう。

本の森の狩人
本の森の狩人
posted with amazlet on 07.07.16
筒井 康隆
岩波書店 (1993/04)
売り上げランキング: 305663

好みに合いそうな本がたくさん紹介されていたので。

ピーター・ディキンスン『封印の島』(論創社)

封印の島
封印の島
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ピーター ディキンスン Peter Dickinson 井伊 順彦
論創社 (2006/06)
売り上げランキング: 376492

めまい。ピブル警視シリーズに通底してあるのは(といっても訳された3冊しか読んでいませんが)ピブルの迷いと目眩で、マッチョだったり頭脳明晰な探偵だったらさらりと解決しそうな問題もなんだかややこしくなってしまう。別に判断力が欠如したぼんくらというわけではないが、徒手空拳で事件に臨み、結果事件は解決できても大きな犠牲を払うことになる。警視をやめさせられた後(『眠りと死は兄弟』『盃のなかのトカゲ』)だと警察の権威がないので仕方ないとも思いますが、警視の時代でさえこんなに頼りないものかと、読み終えた後もピブルさんのどことなく間の抜けた印象は変わりませんでした。

舞台はスコットランド地方のとある島で、宗教団体がとりしきっていた。ピブルの父親を蹴落としたノーベル賞受賞教授フランシス卿(92歳)からの呼び出しを受けて単身島に渡り着く。実はその手紙の主は自らの身の危険を察知してピブルの手を借りようとしたのだった。

なんたる傲慢なおっさんなのだろうか、この教授は。4時間ごとに昏迷してしまう病気にかかっているが、まっとうに起きていられる時間帯ですらピブルをこわっぱ扱いし、決して他人に頭を下げようとしない。ピブルの父親は教授の研究に深く関わっていたが、教授の一存で遠ざけられ研究の栄光にあずかることができなかったらしい。漠然とした父と教授の関係をピブルは問いただそうとしますが、年老いてひねくれすぎた教授は自らの保身ばかりを気にしているのでした。このあたりの読者が受けるイライラ感は相当のもの。

また、まっとうに頭脳が働く人物はピブル側にはほとんどおらず、ゲール語しか話せない女性や、分裂症をきたしている女性信徒、アル中の愛人など、将棋でいったら歩と王様しかいないような布陣。一方宗教団体側は教授の版権などを狙ってヘリコプターを飛ばすこともできるし、信徒たちを厳しく調教してピブルたちの企みを阻止しようとする。彼らを迎え撃つピブルの弱々しさは必見です。それでいて微妙にイヤミなピブルが好きでたまらない。ふしぎなものです。

矢作俊彦『ららら科学の子』(文藝春秋)

ららら科學の子
ららら科學の子
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矢作 俊彦
文藝春秋 (2003/09/25)
売り上げランキング: 180687

おもしろかった! と素直に言えない要素があるものの、全体としてとても爽快感があり、銃や探偵が出てこないハードボイルドとして、実に斬新な視点でかつ飽きさせない文章のスピードで珍しく一気に読み終えてしまいました。

学生運動華やかなりし頃、一人の学生がふとした拍子におたずねものになり、思想的な背景もあって中国へ高飛び。そこでは革命思想を学ぶ代わりに田舎に連れて行かれて30年以上百姓として貧しい生活を送る羽目になってしまう。しかし妻が都会へ出稼ぎに行ったことをきっかけに、日本へ戻る決意をし、密入国したところから物語は始まります。中国の田舎にはテレビが村に一台だけあったとはいえ、30年の間の世の中の出来事からすっぱり隔絶されていたウラシマ状態で戻ってきた彼に、昔の旧友が世話を焼いてくれるのでした。唯一の気がかりだった妹の消息を尋ねることになります。

妹との思い出や、彼女の現在との関係には泣かされました。ともあれば消息不明になった兄を疎んでいてもおかしくないのに、妹は今でも兄の記憶を大切にしている。また、兄も妹ほどではないけれども、両親よりも気遣っていた気持ちが写真屋の前で表れたところはぼろぼろ泣きました。現実なら「いまさら金目当てに帰ってきたなんて!」と拒絶されそうなものですが、そこはきちんと説得力のある文章でぐいぐい読まされます。

主人公が失踪した当時の話題がそこここに挿み込まれることで、現代史、また中国の一般人の生活についても勉強になってしまうお得な一冊。それほど勉強しているわけではありませんが、中国の文化大革命という壮大な人間による実験には大変興味があるので、そちらの側も楽しめて一粒で二度美味しかったです。でもこれを楽しく読めるのはおっさんかも……。ちょこちょこ挿まれるSFガジェット(「スターシップ・トゥルーパーズ」や『猫のゆりかご』など)もファンにはたまらないはず。

とはいえ、妹の件は流して終わったし、女子高生は結局なんだったのか分からないしで、小説として絶賛するというわけにはいかないのも事実。ちょっと読書スランプ中なんて時に、肩が凝らないけど無駄にならない読書として有効ではないでしょうか。

2007年07月22日

第20回読書会『Self-Reference Engine』

Self-Reference ENGINE (ハヤカワSFシリーズ Jコレクション)
円城 塔
早川書房 (2007/05)
売り上げランキング: 76236

読書会もとうとう20回目に突入。隔月開催なので3年以上続いているわけで、なかなかがんばっているではないかと自画自賛しつつ、過去に例のないほど難しいSF『Self-Reference Engine(以降SRE)』が課題図書となりました。推薦者は数学の人、折り紙の人などと形容されることの多い某hs9587さんです。

全体で目立った意見が「感想がいいづらい、あらすじを説明しにくい」ということ。見た目では連作短編集という形をとり、最初の「Bullet」と最後の「Return」がつながっているように見えて、その実途中にはさまれている短編は必ずしも特定の挿話と結びついていないこともある(ex.「Yedo」)ため、全体としてのとらえどころのなさというのは共通していたように思います。ただ、2回読んだ人や理数系の人からは「書いてあることそのまんま」という意見もあり、理数系でないわたしなぞはそのそのまんまにたどりつくまでが問題なのだ、ともうなってしまうのであります。論理の飛躍がピカソのようだという意見もあれば、おもしろいながらも世間で言われているような「傑作」に値するかは疑問、という方もいらっしゃいました。某yama-gatさんは著者の先生にあたる金子邦彦氏の『カオスの紡ぐ夢の中で』を持参されており、この中で小説を書くプログラムだったか小説家の名前が「円城塔○○氏」であり、著者の筆名はここからとられたそうです。また芥川賞候補にもなった「オフ・ザ・ベースボール」の掲載されている文學界を持ってきた人もちらほら。また、GWに行われたSFセミナーにも著者自身が参加していたそうで、その時の話題「長編は苦手」だともうかがうことができました。

全体は「Bullet」と「Return」でボーイミーツガールという分かりやすいネタを枠にして、間では巨大知性体に絡めて比較的難解なSF、それも次元などある程度訓練していないと想像できないようなネタがふんだんに使われているという印象。全体が長編か連作短編集か、という議論もありましたが、個々がしっかり結びついているわけではなく、「時間順序など些細なことにすぎない(P.91)」ということで落ち着きました。

未来で日本語を発掘する「Japanese」の「漢漢漢字」や「平片仮名」などのメタ日本語の創造性に着目したところや、「Yedo」のばかばかしい巨大知性体という矛盾しているような物語を見事にまとめているものに人気がありました。逆に「Traveling」などは状況が想像しづらいなどであまり手を挙げる人がいませんでした。もっとも時間の都合で全部の票をとったわけではなく、ぜひみなさまの嗜好をアンケートで投票していただけるとさいわいです。

短編中「Event」によって巨大知性体が複数おり、人間によって作られた巨大知性体と何らかの方法で増殖した巨大値生体がいることが明かされます。読書会が終わった今もわたしにはよく分かっていないのですが、イベントが発生する前と後では世界のありようは異なる、という話がありました。コンピュータが発展していくとやがて人間の知性を追い越してしまう(シンギュラリティ(ちなみにシンギュラリティについて最初に論文を書いたのはSF作家としても知られるヴァーナー・ヴィンジだそうです))についての物語だそうです。本作に近いのはグレッグ・イーガンの「ルミナス」や『順列都市』とも。

本書には作者の知識から導き出された教養がぎゅうぎゅうに詰まっていて、そのあたりは巨大知性体のネーミングにかけことば的に使われていたりするようです。ナガスネヒコやペンテコステIIなんて名前は単に歴史上から無作為に選ばれたわけではないこと、またイベントの発生は物語の中で大きな比重が置かれていることなどを含めて再読する価値ありの深い物語でした。でもって、SF初心者にはおすすめできないのも確か。

次回課題作は現時点では未定です。決まり次第topにてお知らせしますが、次回はこんなにハードなSF、数学の知識を求められる作品はない模様。

マヌエル・プイグ『赤い唇』(集英社文庫)

赤い唇
赤い唇
posted with amazlet on 07.07.22
プイグ Manuel Puig 野谷 文昭
集英社 (1994/11)
売り上げランキング: 657938

赤い唇。花粉を運ばせるように花が美しく開くように、女性の花弁は赤い唇なのだ。そんな女性のしたたかさ、男性の愚かさが綿々と描かれています。しかし、それだけならただの昼ドラで終わってしまうところを、プイグはプイグだけにしかできない技巧的な描き方で浮かび上がらせます。本作はマヌエル・プイグの第1作目の小説。

結核の優男フアン・カルロスを巡って数々の女性が恋に溺れ、諦め、新しい人生を歩んでいきます。それをつなぐのは今のように携帯電話という便利なツールがない時代、手紙によって亡き人の思い出を語り、返事がくれないことをなじり、手紙だから書ける思いの丈を明かします。また、事件が起こってもその状況を描写せず、警察の調書で綿密に当時の状況を浮かび上がらせる。そうかと思うと、逆に会話があるところは地の文なしで徹底的に会話文だけ。しかし()書きで本心を読者にだけ明かしてくれたりもします。プイグの小説こそ映像にしたら冗長になってしまうところを文章でテンポよく読ませ、薄っぺらな痴話話がうならずにはいられない傑作に仕立ててしまいます。そんなに込み入った話ではないのですが、あくまで直接的には描かない。そこがプイグの魅力です。

マヌエル・プイグはいわゆる「ラテンアメリカ文学のブーム」に当たる世代ながら、他の作家は政治家、新聞記者など政治と近いところに活動の拠点を置いていたのとはちがって、映画監督になりきれずに小説家に転身したところが特徴。そのため、どこか他の作家たちよりも軽く、テーマも映画にまつわるものが多い。自分の転身も含めてどこか責任を取らない軽やかさがあるように思う。本作の主人公フアン・カルロスがさんざん女性と楽しんであっけなく死んでしまったのは、案外プイグ自身にも理想とする姿だったのかもしれません。とはいえ、プイグ本人の死因はHIVで、作中にたびたび出てくるゲイたちの親近感にも見られるように本人自身も同性愛者だったといいますが。無責任さと表裏一体の軽やかさを存分に楽しめます。でも最初に読むのはもっと手に入りやすい『蜘蛛女のキス』をおすすめします。こちらの方が手法が統一されています。

2007年07月28日

森達也『放送禁止歌』(光文社 知恵の森文庫)

放送禁止歌
放送禁止歌
posted with amazlet on 07.07.28
森 達也
知恵の森 (2003/06/06)
売り上げランキング: 6932

音楽の入り口はいろいろある。クラシックを学んで楽器をやる人もいれば、歌謡曲から歌手のファンになって音楽を聴くのが好きになる人もいるだろう。わたしの場合は森川由加里のShow Meカバーから歌謡曲に目覚め、BOOWYや久保田利伸あたりの邦楽を聴いていたのが小学校高学年くらいか。そのときにはちっとも好きになれなかったけど、反体制的でおもしろいと思ったのがタイマーズ

http://www.youtube.com/watch?v=SPlzud3EuL8
http://www.youtube.com/watch?v=_UzDgbCWbfk

この歳になってはじめて夜のヒットスタジオの映像を見たが、今でもかなりの驚き、いやむしろ今の方が衝撃度が強いのではないか。むかしは放送禁止用語なんぞがあってもちょっと蚊に刺された程度にしか見ている方は感じなかった。鈍感ではなくおおらかだった。目くじら立てて怒る人なんて大人でもいなかった。今だと放送禁止用語=日常会話でもアウト、なのだ。もちろんわたしの住んでいた場所が田舎で差別などがほとんどない(はず)ような「東」の田舎だからかもしれない。だが、盲とか唖という言葉は現代になって禁止したといって歴史から失われるような言葉ではない、状態の一つを単純に表す言葉の一つだと考えていたら、最近の某掲示板の内容を見るとどうも日本語から追放されたかのような扱いなのだ。身体障害者の状態を指すはずの言葉に侮蔑の意味がセットで付いているというのはわたしの言語感覚からは意味を付随し過ぎ、深読みし過ぎにしか思えないのだが、どうも日本語はそういうものになってしまったらしい。時代によって言葉は変わるのは当然ながらやや誰かが意図した力を感じる。

脱線が過ぎたがとにかくタイマーズだ。彼らは放送禁止になったことに怒り、FM東京を名指しで罵倒する曲を生放送でやってのけた。大人の解釈なんてどうでもいい、今更ながらよくやった!と応援したくなる。これに引くような奴らは体制側の犬だ! タイマーズは放送禁止になったわけだが、何も彼らが初めて放送禁止になったアーティストではない。その前のフォーク全盛期に放送禁止になったシンガーソングライターはたくさんいた。それらがなぜ放送禁止になったのか、放送禁止の基準とはなんなのかを追ったテレビドキュメンタリーを撮影した森達也氏がその経験をふまえてものしたのが本書。

とにかく、言葉に携わる人はおしなべて本書を読むべし。ある言葉が放送禁止にされるということは、権力を持った奴が勝手に決めたりPTAの力に屈したりするんだろう、なんて単純な構図ではないことに驚くだろう。それはまるでディックの世界のように本当の黒幕なんていないのだ。「なんとなく」「空気を読んで」放送禁止となる音楽の数々。もちろん中にはどうでもいい春歌もあるが、三上寛の「夢は夜開く」なぞはとても幻想的でありながら現状を打破したい気持ちが脈打っていて歌詞を読むだけでもどきどきしてしまう。それらが放送禁止になった経緯を禁止された側のミュージシャンと、禁止した側のテレビ関係者に話を聞いていく。

そして著者が最終章で行き着いたのは竹田の子守唄の舞台である京都の竹田。実は竹田の子守唄が被差別部落で歌われていたというのは初めて知った。George Winstonなどのインストで有名な民謡だとは思っていたが、今になってそんな歴史があったことを知り、自分がまだまだ学ばねばならないことがたくさんあると嘆息したと共に、いつまでも音楽にそんな歴史を背負わせないでほしいとも思った。いい音楽はいい音楽として思惑抜きで楽しめる世界になることこそが平和な世界なんじゃないか。

本書を読むきっかけになったのは先日TBSラジオで放送された「封印歌謡」という放送禁止とされている音楽を特集してかける番組だった。中学・高校のわたしは誰かによって言葉を封印される問題にとにかく憤っていたものだ。寺山修司の影響を受けて都市を劇場化したいという情熱に燃えていたわたしに、自由を奪う言葉狩りの問題は何よりもまず倒さねばならない敵の思想だった。今でもその心はわたしに息づいている。差別の意味を言葉にくっつけるなんていくらでもできる。他人を傷つけない言葉なんてない。だからこそわたしたちは禁制なんて単純な逃げをうつのではなく、ひとつひとつ絡まってしまった糸をほぐしていかねばならないのではないか。昔のタブーが徐々に形骸化している今だからこそ、もう一度きちんと洗い直すべき問題がたくさんあるのだと認識を新たにした次第。フィクションをメインに読む人にだって裂けては通れない問題でありまして、おすすめを通り越して必読の一冊であります。考え続けることが大切なのです。

2007年07月29日

ジャン・パトリック・マンシェット『眠りなき狙撃者』(学研)

眠りなき狙撃者
眠りなき狙撃者
posted with amazlet on 07.07.29
ジャン‐パトリック マンシェット Jean‐Patrick Manchette 中条 省平
学習研究社 (1997/03)
売り上げランキング: 756941

学研から出ているマンシェットはそれほど厚くないしなんといっても割付が狭いので、とても早く読める。しかしそれにしてもなんと多くの人が殺されることだろうか、というのが第一印象。スプラッタかと思うほどさくさく殺されていく。それでも場面の展開に緩急があってそれぞれの死に重みがあるところがマンシェットのおもしろさ。ややドライすぎるほどだけど、話を転がしていくおもしろさは一級品。

傭兵上がりのマルタン・テリエは組織から足ぬけできず大切な人を殺されたり拉致されたりする、というのがあらすじだが、決定的に他のボイルド系とは異なるのがラスト。このラストには驚いたし、泣けた。また、テリエが10年以上懸想していたお嬢様アンヌがひどい女で、マイクル・コニイ『冬のこどもたち』といい勝負。本書からはがんばった男でも不器用だと報われない、という教訓を得ました。

About 2007年07月

2007年07月にブログ「うぽれけにっき」に投稿されたすべてのエントリーです。過去のものから新しいものへ順番に並んでいます。

前のアーカイブは2007年06月です。

次のアーカイブは2007年08月です。