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2007年05月 アーカイブ

2007年05月06日

セルバンテス『ドン・キホーテ』(岩波文庫)

ドン・キホーテ〈前篇1〉
セルバンテス Cervantes 牛島 信明
岩波書店 (2001/01)
売り上げランキング: 27215
ドン・キホーテ〈前篇2〉
セルバンテス Cervantes 牛島 信明
岩波書店 (2001/01)
売り上げランキング: 32930
ドン・キホーテ〈前篇3〉
セルバンテス Miguel De Cervantes 牛島 信明
岩波書店 (2001/02)
売り上げランキング: 32778
ドン・キホーテ〈後篇1〉
セルバンテス Miguel De Cervantes 牛島 信明
岩波書店 (2001/02)
売り上げランキング: 44926
ドン・キホーテ〈後篇2〉
セルバンテス Miguel De Cervantes 牛島 信明
岩波書店 (2001/03)
売り上げランキング: 105481
ドン・キホーテ〈後篇3〉
セルバンテス Miguel De Cervantes 牛島 信明
岩波書店 (2001/03)
売り上げランキング: 79922

読了記念。あいまあいまに読んでいたので読了まで1年くらいかかっているが、その価値はある。続けて読めば1ヶ月もかからないくらいに読みやすく、それでいて先が気になる史上最高の大傑作。昨今の小説を読むうえで古典の素養が必要になるからとシェイクスピアをはじめ岩波文庫に入っている数々の名作の中でも、今読んで素直に誰でも楽しめるんじゃなかろうか。

登場人物は当然主人のドン・キホーテ・ラ・マンチャと従者のサンチョ・パンサ。騎士道小説が大好きで紳士かつ敬虔なクリスチャンであるところのドン・キホーテは、騎士道ぽいシチュエーションがあると自分を投影して周囲の迷惑など顧みずに自らの騎士道を歩もうとする。一方学はないがことわざマシンガンと欲望に忠実な行動力で周囲を笑いに巻き込むサンチョ・パンサ。男二人旅というのは日本の股旅ものや「あぶない刑事」、わたしの好きなランズデールのハッブ&レナードシリーズのように、ボケとツッコミの役割があり、べたべたしすぎない適度な距離感がある。運命次第では敵同士だったかもしれないような、相手を認め合う緊張感。わたしの場合はそこから801的な発想はしませんが、そういう視点が成り立つ友情があるのは認めざるを得ない。

ドン・キホーテはアホなおっさんが風車に突撃するところばかりがクローズアップされますが、実のところは一般庶民と読書家の齟齬を楽しむ物語なわけで、ドン・キホーテの行動よりも会話の妙こそがおもしろい。決して手に汗握るスペクタクルがあるわけではないが、「夕食の会話にふさわしい内容」と呼ばれるにふさわしい倫理的・哲学的な会話がお互いの立場をかけて長々と語られます。最近のライトノベルや映画のスピード感に慣れた人にはちょっとかったるく感じられるかもしれないが、するめはじっくり噛んで味わうように会話もじっくりと楽しむが吉。

後半になると前半の物語が出版されていることが前提となっており、偽物の『ドン・キホーテ』ではセルビアに行って槍試合に出るらしいということを聞いた本物のドン・キホーテは行き先を変えてバルセロナに向かうシーンがあり、すでに語られた自分の運命を知って先回りするあたりはSFの始祖とすら言えるのではないか。そしてドン・キホーテの最期になって至上最上級のメタ仕掛けが炸裂する。ここは6巻きちんと読み通したからこそ味わえる至福の読書。5月の大型連休は終わってしまいますが、これはぜひ教養のためという押し付けがましさなく万人に読んでいただきたい最初の小説にして最高の小説です。

2007年05月14日

John Coltrane「Ballads」

Ballads
Ballads
posted with amazlet on 07.05.14
John Coltrane Quartet
Impulse (1995/06/27)
売り上げランキング: 4897

何一つ楽器ができるわけでもないのに音楽を聴けば救われると無心に信じていた20歳の頃、それまでメタルやプログレのような白人中心の音楽世界に、Jazzという黒人のリズムとメロディが入ってきた。元々打楽器によるリズムのうねりに興味があったのだから、Jazzにたどり着くのも当然。しかし、1940年代あたりに録音されたチャーリー・パーカーやディジー・ガレスピーのような大御所、教養として聴いておかねばならないアルバムはどれもこれもノイズが混じっていて、今ならば味と咀嚼できるところがイヤでたまらなかった。ノイズのうっとうしさを感じずに、Jazzのメロディを堪能できるものを探してたどりついたのがこのアルバム。

コルトレーンはマイルス・デイヴィスのバンドからソロになり複雑なJazzに移行した時期のスターで小難しい音楽も中にはあるけれど、「Blue Trane」の豪快さやこのアルバムの繊細さなども持ち合わせており、頭でっかちなだけではない。このアルバムは1.Say it(over and over again)のフワリと身体が軽くなるようなイントロから優しさに溢れている。ここはビル・エヴァンスの「My Foolish Heart」のイントロ、シンバルのブラシに匹敵する神懸かりぶり。

Jazzを聴くときはいつもより心持ちボリュームを上げ気味にして、ベースやドラムもしっかり聴き分けるようにしています。音楽全体のまとまりも大切なのだけど、構成する要素それぞれのおもしろさだけに着耳するのもおもしろいのがJazz。このアルバムではやはりドラムのエルヴィン・ジョーンズがタイトなスネアの音で「ツッ、スタタッ」という切れの良さがあるから、情に流されそうになるコルトレーンのテナーをうまく支えていられるのだと思います。Jazzにしては曲の時間が短いものばかりだし、初めてJazzを聴くには最適な一枚。

2007年05月17日

晩メシ(チャーハンとサラダ)

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ボケボケなのは仕様です。

作っておいたサラダが減ってきたので、大根の千切りと最近シーズンで出回っている香菜を足してタイ風サラダ。とはいえ、そんなに辛くない。たまねぎや鳥はむを散らすもよし。

メシは先日某フェスティバルで購入したカピ(タイのエビ味噌)とニョクマムをベースにしたチャーハン。やや炒めすぎてパラパラすぎるのも愛嬌。具はソーセージと炒め終わったあとで混ぜ合わせた香菜。正直エビの香りやうまみはあまりなく、これなら普通に売られている乾燥小エビの方がうまいかも。

2007年05月19日

吉村作治『豊穣のナイル、ルクソールの食卓』(中公文庫)

豊饒のナイル、ルクソールの食卓―エジプトグルメ紀行
吉村 作治
中央公論社 (1996/07)
売り上げランキング: 910012

エジプト考古学の超有名人、吉村作治氏によるエジプトの食に関するエッセイ。カラーで現地の写真が多数掲載されており、大変に興味深い。しかし、エジプトの珍しさよりも先にたってしまう欠点が二つ。

一つは余計な水彩イラストが多すぎることと、写真があまりおいしくなさそうに見えてしまうこと。パステル調のイラストはエジプトの熱には似合わない。そして写真も引きのカットが多く、食材そのものに焦点を合わせてあるものは少なく、全体に研究の合間に依頼があったからさらさらと書きました程度のもの。

もう一つ決定的にエジプトらしさを感じられないのが、著者が現地に日本の醤油を持ち込んでなんにでもかけていることだ。要はエジプトの味が合わないらしいのだ。これでは読者はエジプト料理への興味が盛り上がらない。料理専門家ではないのでないものねだりかもしれないが、エジプト料理という平成の日本でもあまりなじみのない地域の料理を、遺跡を発掘するようにもっと深く掘り下げてほしかった。

2007年05月26日

イアン・マクドナルド『黎明の王 白昼の女王』(ハヤカワ文庫FT)

黎明の王 白昼の女王
黎明の王 白昼の女王
posted with amazlet on 07.05.26
イアン マクドナルド Ian McDonald 古沢 嘉通
早川書房 (1995/03)
売り上げランキング: 494715

久しぶりに正統派ファンタジーを、と思って手に取ったらまんまと裏切られた。この意外性があるからハヤカワFTはおもしろい。

600頁もあるのは、3部作になっているから。1900年代初頭にお嬢様エミリーが妖精と出会う第一部「クレイグダラホ」、第二部「神話録」ではジェシカ・コールドウェルが自分の出自に気づきIRAの兄ちゃんとかけおちし、第三部「コーダ 晩夏」の短いシーンを挟んで第四部「神の臨在(シェーキーナー)」はそれまでの現実感を超えて居合い抜きが得意な少女イナイがサイバーパンクのような舞台で活躍する。

どの章も少女から受胎を経て女性となる過程を元にしつつ、平行世界で繰り広げられる妖精の世界が垣間見える主人公が翻弄される様を描く。しかし電車の中で細切れに読むには世界が濃密すぎて、入り込めないところや世界観を一歩引いて見てしまって冷めてしまったことも事実。また、わたしの読解力ではそれぞれの章の関連性がサブキャラクターの存在が共通しているだけで、あまり強い世界の結びつきが感じられなかった。特にラストの命名シーンで連環の輪が閉じるかと思ったが、『エンジン・サマー』のようなきれいさではなく、とってつけたようなピリオドにしか見えない。一度では読み取れない情報がたくさんあるので、また挑戦します。

あと、原題のシンプルさ(『King of morning, Queen of day)に比べて、邦題ではあえて仰々しさを強調してあるのはなぜだろう?

2007年05月27日

最近のおかいもの

・大島弓子『グーグーは猫である3』

グーグーだって猫である 3 (3)
大島 弓子
角川書店 (2007/05)
売り上げランキング: 4756

・キャロル・エムシュウィラー『すべての終わりの始まり』

すべての終わりの始まり
キャロル・エムシュウィラー 畔柳 和代
国書刊行会 (2007/05)
売り上げランキング: 169177

・ジュディ・バドニッツ『空中スキップ』

空中スキップ
空中スキップ
posted with amazlet on 07.05.27
ジュディ・バドニッツ 岸本 佐知子
マガジンハウス (2007/02/22)
売り上げランキング: 35880


・Chico Buarque
Chico Buarque (Morros Dois Irmanos)
Chico Buarque
RCA International (2003/09/23)
売り上げランキング: 106949

・Thunder「オンリー・ワン / プレイ・ザット・ファンキー・ミュージック」

オンリー・ワン / プレイ・ザット・ファンキー・ミュージック
サンダー
ビクターエンタテインメント (1998/06/24)
売り上げランキング: 185752

Thunderの「Play that funky music」ってほんとにKC & The Sunshine Bandの曲でびっくりした。しかも案外芸のない完コピ。

さて涼しくなってきたのでぬくぬくと読書に入りますぞ。

村上春樹『ランゲルハンス島の午後』(新潮文庫)

ランゲルハンス島の午後
村上 春樹 安西 水丸
新潮社 (1990/10)
売り上げランキング: 146785

村上春樹も嫌いなら安西水丸も肌に合わない。それでも食わず嫌いはよくないから手に取った一冊。もちろん図書館で。それに薄い。

Jazzが好きなところや、妙なところにこだわりがあったりしたり猫好きなところなんかも、結局のところわたしの同族嫌悪に過ぎない。わたしごときが同族嫌悪なんてはなも引っかけられないけれども、それでもわたしがイヤといったらイヤなのだ。あと、会社勤めしたこともないあたりも妙に鼻につく。あれ、なんだかイヤな表現はみんな鼻がつくな。

それにしても「僕」の多いことよ。自意識が強く他人は他人なんて平気なふりをしているくせに、妙に他人のことをしっかり観察している。そこも自分に似ていてイヤ。だったら読まなきゃいいのだ。というわけで、今日を限りに村上春樹を読まないことにした。たぶんきっと。

カート・ヴォネガット・ジュニア『タイタンの妖女』(ハヤカワSF文庫)

タイタンの妖女
タイタンの妖女
posted with amazlet on 07.05.21
カート・ヴォネガット・ジュニア 浅倉 久志
早川書房 (2000/00)
売り上げランキング: 4251

カート・ヴォネガット・ジュニアの小説はハヤカワSF文庫というレーベルの中のはぐれものだ。もちろん、本国アメリカではヒッピー文化の後期に大きな影響力を持ち、決してSFの一言で語り尽くせる小説は書いていないし、本人すらSFではないと公言していた。けれども、本書はまぎれもなくSFであり、SFというジャンルから簡単に導けるほど生はんかな作品ではない。

父親の遺産を継ぎさらに繁栄を続ける相場師マラカイ・コンスタント、誇り高いが狭量なビアトリス、その夫にして年に一度実体化するラムファードと犬のカザック。地球でそれなりに不満を抱きながらも裕福な生活をしていたマラカイとビアトリスが火星に行くことになるとラムファードが予言するところから話が始まる。

「ティミッドとティンブクツーのあいだ」という第一章で衝撃を受けなければこの本を読む必要はないと断言できるほど、とにかく最初からデフォルメされながらも人間の本質をずばりと突いた事件で一気にずるずると蟻地獄の巣のようにひきこまれていく。

 いまではどんな人間も、人生の意味を自分の中に見つけ出す方法を知っている。
 しかし、人類がいつもそう運が良かったわけではない。ほんの一世紀たらずの昔まで、男も女も自分の中にあるパズル箱にやすやすとは近づけなかったのだ。
 魂の五十三の入り口のうち、たった一つの名も言えなかったぐらいである。
 たくさんのインチキ宗教が幅をきかせていた。
 あらゆる人間の中にひそむ真実に気づかずに、人類は外をさぐった——ひたすら外へ外へと突き進んだ。この外への突進によって人類が知ろうとしたのは、いったいだれが森羅万象を司っているのか、そして森羅万象はなんのためにあるのか、ということだった。
 人類はその先発隊を外へ外へとくりだした。そして、ついに先発隊を宇宙空間へ、無限の外界の、色もなく、味もなく、重さもない海へと投げ込んだ。

「魂の五十三の入り口」というものいいは、なんとなく生命と宇宙と万物についての究極の答えが「42」というのに似ている。が、それはともかくとして、この小説で語られる地球人のものみだかさといやしさ、火星人のおろかさは、なんともうんざりしてしまうほど21世紀の地球に近い。

ヴォネガットほど分かりやすい文章で複雑なSFを織り上げた作家はそうそういない。20世紀の古典となるべき作者による人間関係の悲しさ、幸せになれない人間の愚かさを描いた傑作です。これと『スローターハウス5』は必読。

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