サラ・ウォーターズ『半身』(創元推理文庫)
東京創元社
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ミステリは犯人探しが中心に据えられてしまうと、「別に人一人死んだくらいでがたがた言うな」という人でなしなので、あまり犯人が誰であるか気に留める気持ちがなくなり、がんばって読み終えてもあまりよい感想を抱かないことがほとんどです。また、探偵側の正義ぶりが順当なものか、酌量の余地はないのか、ということに目が向いてしまうのもいけません。こんなことでは警察官はもとより、今後はじまる陪審員制度に呼ばれた日にはたいへんに非倫理的な判断を下してしまうような気がします。
さて、本作は裕福な家の老嬢(とはいってもまだ29歳)マーガレットが福祉事業の一環で女囚刑務所に慰問に行き、そこで霊媒師の娘シライナに出会って影響されていく物語です。これをお互いの日記形式、しかも逮捕されている霊媒師の娘は事件のきっかけとなる過程を日記で綴っているところがおもしろい。この手の手記ものにありがちな異常なほどの記憶力が発揮されて、エンターテインメントあふれる日記になっているのはご愛嬌。徐々にマーガレットがシライナの霊媒の力と人なりにのめりこんでいくところが見所。最後の見事な展開にはすがすがしく堪能いたしました。
霊媒という21世紀に生きるわたしたちにはあからさまに嘘であり詐欺の手段である職業が、いかに真実味に迫ってくるか。「いやー、それは別の人がやってるよね」ということも、信じてしまった人による日記という形を通すと「あれ、ほんとに霊の力なのかな?」と疑心暗鬼に陥ったりする。オレオレ詐欺なんて、と手際をおろそかにする人ほど、いざとなったときにだまされてしまったりする感覚に近いかもしれません。
年末の忙しさが一息ついたあたりで読むと、ロンドンの寒さが身にしみたりしてより実感がこもるかもしれません。大掃除をさぼっておくと女囚刑務所のきたならしさまで体験できて、よりリアルに。




